1.《ネタバレ》 自分がポランスキー監督のことをよく分かっていないのかもしれないけど、ポランスキー監督らしくない普通の真っ当なサスペンス作品であることにまず少々驚いた。こんな映画も撮れる人なんだなというのが正直な感想。
そしてハリソンフォード。この人は嫌いでもないし、特別好きでもない、正直いってあまり印象もない人だけれども、この映画の中の彼の演技は素晴らしいと言わざるを得ない。
異国の地で事件に巻き込まれた「孤独感」「困惑」「いらだち」「必死さ」を見事に表現していた。
特に子ども達への電話が見事。普段なら親のいないところでパーティーなんてやっていたり、深夜に出歩いていたら、どなりつけるものなのに「楽しみなさい」なんて絶対言わないようなセリフの一つに「不安感」とともに「安堵感」という表裏した感情を織り交ぜている。
また、屋上での窓から窓への移動における彼の演技も素晴らしくないだろうか。唯一の手がかりであるカバンをぶちまけたのに「もうどうなっても知らんがな」という投げやりな表情を浮かべている。
そして、劇中における彼の性格や生活感も随所ににじみ出ていた。裕福な医者でありなんでも金で解決しようとする姿勢や、重要な交換条件である自由の女神よりも目の前の女性の命を優先する姿勢、敵であるはずなのに心臓マッサージを施す姿や、こんなところでは会いたくもないはずなのに能天気な医者仲間に会った時の彼の態度、全てに彼の性格があらわれている。
この映画は細かい部分に亘って、演技、脚本、演出が揃ったなかなかのものと言わざるを得ない。
謎の女性もなかなかの好演。最後に金を要求したのも、彼女なりの意地と、親友を(敵対している相手から)殺されたせめてもの報いを込めているのだろう。
それにしても、この映画、冒頭のクレジットから「ナインスゲート」に酷似している気がする。テーマこそ全く違うが、アメリカから来た男性が異国の地で否応なく事件に巻き込まれていく、そしてその登場人物を助ける謎の女がいるという構図はそっくりだ。しかし、あちらの評価は相当低くした。自分にとって、映画における重要な点の一つに、登場人物の感情の動きが読めるのかどうか、感情移入できるかどうかという点があるのではないかと二つの映画をみて思い知った。