3.《ネタバレ》 思い出深い作品です。徳山ダム建設により、ダム湖に沈む定めとなった村落に住む老人と少年の物語です。ダム工事で生計を立てる息子夫婦と家に置き去りにされた老人。岐阜の工場で仕事をしていた頃、岐阜市柳ケ瀬の映画館で鑑賞しました。観客は30人ほどだったでしょうか。映されるのはダムの底に沈んだ街であり、もうこの世には存在しない土地。二度とふるさとを見ることはできず、訪れることすらできないというリアリティが胸に迫り、生まれ育った土地を離れようとしない老人の気持ちが実に痛ましいほどに伝わってきます。鑑賞後、金華山という岐阜県・愛知県を一望できる山に登り、街の灯りを眺めながら、この街が深い谷に沈むとしたらどうだろうかと想像しました。人々は何を思い、どこへ行くのだろうかと。それでも人々は生活を続け、生きられる限り生きるのに違いありません。それは一体何なのか? 何がそうさせるのか? 知りたくてその週末に完成した徳山ダムを訪れました。一見、山道を行く際に通り過ぎる何の変哲もないダムであり、人里離れた山奥には不釣合いな高規格の道路が整備されていました。教えられなければ底に街が沈んでいることはわからないでしょう。ただ、水面に向かって伸びてゆく急勾配の道と、錆びた速度標識が生活の名残をとどめていました。ふるさとを失っても人々は生き、今日もどこかで生活を続けている。ただそれだけであるということ。人間の業ともいうべきなにかに触れた気がして自分が生きていることに対する感謝の念が湧き立ったことをよく覚えています。映画によって現実の行動を喚起されたのはこれが初めてだったかもしれません。満点です。