134.《ネタバレ》 ひとつの殺人事件に関係した人たちを均等に深く描く。老舗旅館のバカ息子を除き、ほぼ全員に同情できる。本作の殺人犯は間違いは起こしているけど、私の尺度では悪人とは呼びません。では、「悪人」というタイトルの意図するところは何だろう? 世間一般に「悪人」と呼ばれる人がいても、それは正しい呼称なのかという疑問。ひいては、真の「悪人」なんて滅多にいないんじゃないかというメッセージ。もちろんそれは言い過ぎで、この映画に登場しなかっただけのこと。ただ、本作を見た後では報道やワイドショーが見せる犯罪者の素性の頼りなさに思い至る。振り返ると、「悪人」というタイトルが付いていなければ、悪人が悪人たるゆえんについて考えることはない映画でした。登場人物たちの思惑が乱れ飛びタイトルに集約されて、テーマを疑問形として投げ返す。製作側の思索に感心しました。ちなみに、健康商法をやっていた奴らだけは紛れもない悪人でしょう。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-09-16 22:05:37) (良:3票) |
133.《ネタバレ》 とってもいい映画だったと思います。2010年の邦画No.1と言ってもいいくらい。大抵の映画は、主人公に肩入れして他は飾りみたいなものが多いけど、この作品に出てくる登場人物は、一人残らず皆、共感が出来る。「悪人」というタイトルですから、観る前は当然、妻夫木君演じる清水祐一の悪行を見せつけられる内容なのかなと思いきや、そうではなかった。登場人物は、誰もが悪い面を持っていた。それは、人間誰しもが持ってる影の部分。それを等身大で、リアルに、そして丁寧に描かれており、だからこそ、全ての人に共感することが出来た。祐一の役柄を考えると、妻夫木君ではちょっとイケメン過ぎるようにも思えるけど、彼の持ち味であるキラキラした瞳を消して、やるせない一人の若者を頑張って演じきっていた。満島ひかりの嫌な女役も、岡田将生の憎たらしい男役も、樹木希林演じるどこにでもいそうなおばちゃん役も、みんなとってもハマり役で素晴らしかった。個人的には、娘を殺された父が圭吾に言い放った「そうやって一生、頑張る人をバカにして生きていけばいいんだ」の台詞が、現代人のシニシズムを痛烈に批判してるようで清々しかったです。 【あろえりーな】さん [DVD(邦画)] 8点(2011-03-21 00:52:55) (良:3票) |
132.《ネタバレ》 結局変な人たちの映画だったの? 【以下バレ】 映像的には飽きもこないしなかなかいい線いっていると思わなくもないのだが、いかんせん殺人の動機が弱い。あのくらいの台詞でいちいち切れてたら社会人なんぞやってられんだろう。差別や格差を無理くり作り出して物語を捏造するという意味でなら、時代を写実しているといえなくもないが(皮肉だよ)。 物語の転換点となる重要なアクション描写(妻夫木と深津との最初の出会いや、殺してから橋の下へ落としたはずの行為)がどういうわけか端折られている。おかげで逃避行にも説得力がない(まるで「おかしな二人の旅日記」)。さらにどうしようもなく皮相的な大学生の会話や態度など気に入らない点はいくらもある。最後の灯台シーンも、人生崖っぷちの象徴のつもりならなんで崖そのものを映さんのかと思う。青い空に広い海じゃ心象風景と真逆じゃねーか。 妻夫木はその変態性を出すのが遅すぎるし、深津はまるで普通のおばさんで田舎の嫁き遅れの暗さをちっとも出せていない。ただ光る点もあり、とても丁寧なカメラマンの仕事もさることながら、満島ひかりの演技。方言を駆使しての快活なOL役は見事にどハマりだったし、何より死後橋の上で柄本の呼びかけに応じて出現した際の、(これは撮影の妙もあるのだろうが)筆舌に尽くせないほど多義的な表情。まさに映画でしか表現できないものであった。もし賞に価するとしたら、満島の方だったであろう。 【アンギラス】さん [映画館(邦画)] 5点(2010-10-01 00:51:52) (良:3票) |
131.《ネタバレ》 「出会い系」というツールが結ぶ男女の出会いを発端に、一人は殺され一人は初めて人を愛する。一つの出会いが運命的な出会いとなる。それが二つあるわけだ。なんて映画的なんだろう。となると「出会い系」という安易で軽薄なツールを使う登場人物たちの孤独さを象徴するシーンの連なりがこの作品の肝となってくる。原作どおりとはいえ、GT-Rに三連メーターなんていう車オタクぶりを見せる妻夫木。居酒屋で友人に対して虚勢を張る満島。妹カップルの出て行ったあとの乱れた寝室をぴしゃりと閉める深津。それぞれの孤独を表すなにげないシーンが効果的に配されてゆく。なのに「国道のあっちとこっちを行ったり来たりするだけの人生」(正確じゃないけど、そんな感じのこと)という決定的な孤独環境をセリフにしちゃう安易さよ。「レイプされたと訴えてやる」と声を張り上げるそのときの「絶対」を連呼する満島の短絡思考表現の絶妙さに比べて岡田のわかりやすいだけの人物造形のスカスカさよ。そしてやっぱり出てきたバカの一つ覚えのようなマスコミの描き方。とどめは一生懸命に何かを語ってくる音楽の鬱陶しさ。いいところも多々あるのに、どうしてそんなことしちゃうのってのがもっとある。 【R&A】さん [映画館(邦画)] 5点(2010-09-21 16:31:11) (良:3票) |
130.あっさり薄味の映画でした。無理やり感動系にしたかったようですが、ちょっとズレている気がします。だいたい出会い系で会ってたちまち入れ込んでしまうインスタントな主人公2人より、「誰のクルマにでも平気で乗ってくる女は嫌いだ」と言って美女を蹴り出してしまう大学生君のほうが、よほど筋が通っているし男気がある。彼はスパナを持つ柄本明に対し、「おたくの教育方針が間違っていた」と説教してやるべきでした。 と、いろいろ考えてみると、実はコメディー映画にしたほうがよかったんじゃないかという気さえします。「もし出会った彼が殺人犯だったら」みたいな。けっこう笑えると思うのですが。 【眉山】さん [地上波(邦画)] 5点(2011-12-19 14:55:15) (良:2票) |
129.地上波のカットしまくり版を見てレビュー書くのってどーよ、と思うが、お金払ってDVD借りる気にはならんだろうし、多分カットされたシーンは、お茶の間に流せないようなシーンばっかだったんだろうから、別に大勢に影響ないか、と思って書くことにしました。というわけで、原作は既読。吉田修一ファンの方には申し訳ないんだが、私はこの人の作品2本しか読んでいないけれども、嫌いです。もう1本読んだのは『さよなら渓谷』。選択が悪かったんだろうけど、まあ、嫌いになっちゃったもんは仕方ない。なので、本作もゼンゼン期待しないで見た次第。というか、むしろ、こき下ろしてやろうと手ぐすね引いて見たといっても良いくらい。ところがところが。あら、結構イイじゃない。原作じゃムカついた、佳乃の殺害シーンの描写も、こっちは見ていて「ひでぇなー」としか思わない。これは、多分、満島ひかりの演技が上手いからでしょう。始めから終わりまで、まあ、ムカつくことなく見れたのでした。脚本に原作者も参加しているけれども、こういうのって、むしろ失敗するケースが多いと思うが、本作に限っては成功していると思う。そうか、吉田氏は、こういうことが書きたかったんか、と、原作を補うものがあったような。この人は、小説家より、脚本家の方が向いてんじゃないか? とさえ思った。・・・とはいえ、まあ、だからもう一度見たいかと聞かれると、別に見たいと思わないし、心を動かされる何かがあったかというと、それもない。ふわ~っとイイ作品、でしかない、私には。でも、それはそれで十分良いとも思う。吉田作品を他にも読もうとも思えないけどね・・・。あとこれ、CMが一杯細切れで入っていたんだけれども、日本の企業ってのは、もう少し、ショーバイ根性よりも、文化とか芸術とかの精神性を尊重するっていう度量はないのかね。ある程度まとめてインターミッション的にCM流すとかさー。そういう企業だったら、同業他社の製品より高くても私は買うぞ、率先して買うゾ。そういう、芸術に理解ある(上っ面じゃなくて)本物の経営者っていないのかねぇ、・・・ということを、本作を地上波で見て一番強く感じました。 【すねこすり】さん [地上波(邦画)] 6点(2011-11-29 21:49:40) (良:2票) |
128.《ネタバレ》 深津絵里が賞をとったためにクローズアップされているようですが、妻夫木君が田舎の金髪のおにいちゃんのなんとも寂しいイタイ感じが出てて、断然良かった。社会の片隅でひっそりと生きているそんな感じが出ていないとこの映画は成り立たない気がする。自分の先入観もあるかもしれないけど、なんか深津絵里はいつも深津絵里にしか見えない。 悪人というタイトルから悪とは何かという映画かと思いましたが、親兄弟とか同じ学校とか関係なく、真に人とつながることにしか救われない・・・それが出会い系であってもセックスがきっかけであっても・・・と感じました。「大切なものが無いからそれが自由だと思って、大切なものがある人を笑う」的な柄本明のセリフ迫真でしたが、悪役がやけにステレオタイプだったからかセリフに頼り過ぎな感じも受けました。全体に無駄の無いカメラワークで良かったのですこし残念でした。 【ETNA】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-11-12 12:09:48) (良:2票) |
127.この世に完全な悪人も善人もいない、あるのは相手との関係性と、ただほんの僅かな運の良し悪しだったりする。 「俺、なんででこんな人間なんやろ」という妻夫木君も、「あたしはそんな人間じゃないっ」と絶叫する満島ひかりちゃんも、同じように今という不安を彷徨っていたのだろう。 よくよく胸に手を当ててみたら、妻夫木の不器用さも、深津のみっともなさも、満島の計算高さも、岡田の虚勢も、余貴美子の身勝手も、松尾ズズキのあくどささえ、全部自分自身に当てはまるではないか。 そんなヒリヒリする思いに加えて、シーンは雨、雨、雨、と、閉そく感と胸苦しさをかきたてる。 なんと完成度の高い映画でしょう…と思ったら、フラガールの李監督なのですね。 で、原作者が脚本も書いてらっしゃる。なるほど。 難しいテーマの作品を、長い尺にも関わらず、巧みな場面転換により飽きずに一気に観せてもらいました。 人物の背景も説明臭いセリフではなく、映像できちんとみせてくれる。 そして、キャストが揃いもそろって熱演。 一人ずつ褒めたらキリがないし、誰か一人をとりあげたらもう全員褒めなくちゃならないほどだけど、強いて、強いて言うなら満島ひかりさんは出色ですね。 観賞後は救われたような、やるせないような、複雑な思いが残る。傑作と言って良い出来だと思う。 【poppo】さん [DVD(邦画)] 10点(2011-08-08 00:00:43) (良:2票) |
126.妻夫木聡と満島ひかりの演技が良かった。また、長崎に住んでいた者として、長崎人(妻夫木聡)と佐賀人(深津絵里)の疎外感、長崎・佐賀と福岡・湯布院(満島ひかり・岡田将生)のコントラストが、すごく身に沁みた。原作未読ですが、このあたり、長崎出身の吉田修一さんの設定がうまいなと思いました。ともかく、現代日本の闇を描ききった良作と思います。 【ashigara】さん [映画館(邦画)] 8点(2011-07-09 20:37:50) (良:2票) |
125.《ネタバレ》 なんと言うか、淡々とした展開なんですが、じわじわと胸の奥からいろいろな感情がこみ上げてきましたね。まあ、人間誰しも悪人であり善人であり普通の人であることを痛感します。 この作品に出てくる人間たちはわかりあっているようでも、誰一人わかりあっていないし、皆探りあいながら他人にレッテルを貼って識別しその共通認識で連帯しようとしているような孤独な人たちなんですよね。 このどうにもならない孤独感を、妻夫木聡や深津絵里が演じ切れていたかというと正直微妙ではありますが、まあメジャー作品なのでそれは仕方ないところでしょうね(二人の演技はとても良かったですが綺麗すぎるんですよね)。これで、どこにでもいるような冴えないあんちゃん、ねえちゃんをキャスティングしていたら多分号泣していたと思います。 しかし、李相日という人は本当にヒリヒリするような映画作りをするのが上手いですね。 【TM】さん [DVD(邦画)] 8点(2011-05-31 00:43:33) (良:2票) |
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124.キャストは豪華だし、映像的にも完成度が高い。 でも、僕はこの手の作品が苦手だ。 この物語はフィクションであり、特定の事件をモチーフにした作品ではないのだろうけど、世の中にこういった事件が存在することも事実。 そんな被害者や被害者の遺族のことを想うと、多少なりとも被害者を悪く描写することに抵抗感がある。 もちろん、殺人事件の被害者はすべて聖人であるとは言わないけど、敢えて悪く描く必要もないんじゃないかと。 何の罪もない女性がたまたま事件に巻き込まれてしまったという設定じゃ駄目だったんだろうか? そういうことをつい考えてしまう。 殺人事件の加害者であっても根っからの悪人ではないかも知れないというメッセージには納得しつつも、やっぱり被害者は悪く描かないで欲しかったというのが正直な感想です。 そんなことをいろいろと考えさせられる深い作品です。 【もとや】さん [映画館(邦画)] 5点(2011-05-19 15:25:23) (良:2票) |
123.《ネタバレ》 ラストシーンに全てが集約されている。被害者、被害者の遺族、加害者(正確には光代)、加害者の遺族(スカーフ)、世間一般(タクシーの運転手)が殺人現場に一同に会し、それぞれの思いが交錯する。光代の「そうなんですよね。彼は悪人なんですよね」は皮肉、嘲笑であり、納得や割り切ることはしていない。こういったさりげないが凝っている構成が随所にみられ、面白い。安定した固定カメラを中心に、さまざまな手法、ショットが使われており、監督のひとつの到達点のような映画であった。完成度の高さ、役者の演技の上手さは一品。妻夫木はそんなに演技が上手い印象ではないが、ハマると素晴らしい。満島は最早圧巻。しかし多く指摘されているように、音楽の饒舌さは目に、もとい耳に余る。「悪」の相対性を表現しながら、実はそれはステレオタイプな描き方ではないか、という批判も確かに妥当するであろうが、この作品は被害者(そして増尾)を悪人に仕立てるというよりも、悪人というものがそもそも存在するのか、という問題提起のように私には思われる。 【Balrog】さん [DVD(邦画)] 7点(2011-04-08 15:35:09) (良:2票) |
122.この伏線がここで効いてこう、みたいなエンターテインメントを期待する人にとっては陳腐な設定、ストーリーだろうな。 プロット的にははっきり言って大したことないし。 でもそういうところじゃなくてひとつひとつのシーンの中で描かれる登場人物の心模様、それを表現する行動や表情のディティール、それを味わうタイプの映画なんじゃないかな、これは。 そういう意味では極めて“小説的な”映画だと思いました。 (原作未読です) 【とと】さん [映画館(邦画)] 8点(2010-10-06 06:15:52) (良:1票)(笑:1票) |
121.《ネタバレ》 原作は未読です。映画全体は冗長で、全編グジュグジュと煮え切らない様を延々見せられ、人物表現に多少、見られた陳腐さも気になり、最終的には『何だかなぁ・・』と複雑な印象になりました。まず『悪人』の妻夫木演ずる祐一の殺しの動機の真相は、どう見ても『元々悪いのは被害者の娘、佳乃。こうなるのも仕方がなかった』というような感じで、祐一のおばあさんを恐喝する業者をはじめ、被害者・佳乃の本来の相手の増尾のような『悪人』として描かれるキャラとはまるで違う一線を引いて『祐一は他とは違って悪人ではない』と見せてますが・・・でも祐一は佳乃の正気を失った行動に激情して殺害に走ったと言ってもやはり自分の意思で身勝手に殺したのだから、やっぱりどう同情的に表現しようとも彼もまた『悪人』なのです。フェアじゃないよな・・いいじゃない彼も元々『悪人だった』でその為の深津絵里演ずる光代がいる訳です。彼女の存在で彼は灰色の人生に潤いを与えられ変っていくと描写している訳なのにねぇ・・。でも光代が祐一を悪人呼ばわりする妹に対し『彼は悪人じゃない』と電話で言いますが、最終的に祐一に娘を殺されひどい心の傷を付けられた家族の姿を見て『理由はどうあれ、彼は世間的には悪人でしかない』と言うような感じで終わるのは何とか良かったと思います(色々な解釈の余地はありますけど)。あとはこの映画の仕組みは被害者と加害者とその家族の描写が主軸ですけど、特に樹木樹林のおばあちゃんのエピソードは何か繋がってないような浮いている感じがしましたね。樹木樹林の存在感で何か重点を置かれてる気がしますけど、実はあまり関係がなくね?と・・。そしてさらに気になったのはそれを追っかけるマスコミの描き方・・あれって『誰も守ってくれない』と同じで本来、事件に関係のない加害者の家族を執拗に追い詰めるようなマスコミの姿に閉口。しかも老いた普通のおばあちゃんに対して・・現実にあり得る?かと、こういう所はガッカリしますね。もちろんそれぞれの役者陣の演技は素晴らしいと思いましたし良かった所はありました。でも、諸々の散漫さと展開の冗長な感じがどうしても否めず作り手が強く伝えたいであろうテーマが薄ぼけてしまったような作品でした。 【まりん】さん [映画館(邦画)] 5点(2010-09-26 16:34:03) (良:2票) |
120.《ネタバレ》 現代人の孤独とか、そういう部分を描きたかったのだと思うが手法があざとすぎる。昨日今日会った殺人犯が自首しようとするのを「なめないで!私待ってるから!」などという女がどこにいるのだろう?出会い系で初めて会った無口な男が最初に言った言葉が「ホテルに行こう」でついていく女がどこにいるのだろう?最終的に殺人犯と逃避行する気持ちの揺れも見えない。人間心理とテーマに描くならもう少し丁寧な描き方をしてほしい。 【東京ロッキー】さん [映画館(邦画)] 2点(2010-09-23 14:51:30) (良:2票) |
119.《ネタバレ》 原作は未読。役者陣の演技は文句無し。主演二人は切迫した状態や感情の機微を細やかに表現しているし、脇を固める樹木希林や柄本明の安定感と存在感は、素晴らしいの一言に尽きます。 テーマが「誰が本当に悪人なのか?」だとすれば、恐らく「誰もが立場や状況によって悪人にも善人にもなり得る」となるのでしょう。現実的に見れば、本作は「経験値の低い男と女の逃避行」に過ぎません。生まれ育った街から出た事もなく、人付き合いも碌にせず(出来ず)、世間一般では白い目で見られる「出会い系」で出会った男女が依存し合う、現実逃避の物語。しかし私は、この「世間一般」がキーワードだと思います。 二人は、自分の人生を満足に生きられない・生き方を知らない人間なのでしょう。閉塞感に包まれた何の変哲もない日々。周囲の期待や固定観念に縛られ、どこか自分に無理をしたり、犠牲にせざるを得ない人生。人並みに恋愛すらできず、またそのやり方さえ知らない不器用な生き方。世間一般では蔑まれる方法でしか他人と関わる事が出来ない、悲しくて弱い人間。それでも、誰かの存在を求めずにはいられない。そんな二人が出会えば、互いに惹かれ、共感し、依存してしまうのはごく自然の成り行き。先が見えていても一縷の望みに縋ってしまうのは、そういった弱い人間だからこそなのでしょう。 二人の行動には、多くの人が迷惑を被ります。それでも止まる事が出来ない(しない)のは、彼らのような人間が極限状態に追い込まれると、自ら破滅の道を選んでしまいやすい、という典型例なのかもしれません。彼らがもしいわゆる世間一般の感覚を持ち得ていたら、祐一は人殺しをしなかったはずですし、光代もそんな彼と行動を共にすることも無かったはずだから。結局二人は「似た者同士=世間一般とは少しズレた二人」だったのでしょう。それを対比として描写しているのが「被害者の父がマスオに危害を加えようとしたものの、ギリギリで踏み止まった場面」であり、「タクシー運転手と光代の会話」なのでしょう。 印象的だったのは「夜に鏡を見ていたら、急に(金髪に)したくなった」と言う祐一に、光代は「なんか分かるかも」と同調する場面。夜の孤独と現状を打破したい気持ちが集約されているような気がしました。 音楽が邪魔に思えたのは少し残念でしたが、それでも私は本作に強く心を打たれたので、この点数にしました。 【港のリョーコ横浜横須賀】さん [映画館(邦画)] 8点(2010-09-20 01:52:27) (良:2票) |
118.《ネタバレ》 この映画と人によって解釈が異なるレビューを見て、本当の意味で人の気持ちや考えを理解するのは不可能だと改めて感じた。 言葉で表現することに無理があるのだと思う。取捨選択の末に口から出た言葉は全然違うものになっていると思う。自分の気持ちや考えをどれだけ把握できているのかもよく分からない。 佳乃の父が「大切な人がいないから自分には失うものがないと思い込んで、それで強くなった気になる」と大学生に関して言っていたが、彼の何を知っている?歪んだ現代の若者というレッテルを貼ることでしか理解できないのだ。山道で蹴り飛ばした行為は最低だ。その点だけを責めれば良かった。仲間内での薄っぺらい会話など彼を理解する材料にはならない。 祐一と光代の関係に関して以前の自分なら、安い関係だ説得力が無い急展開だと切り捨てていたと思う。でも、日々孤独を感じている今なら彼らの気持ちに共感できる。孤独を感じる中で少しでも自分を求めてくれる人がいたら直ぐにでもその人に依存したくなるものだと思う。人を理解するのは難しくよく分からない存在でも孤独には勝てない。 祐一の祖母はずっと一緒に生活していながら祐一の気持ちを理解できていなかった。知人による祐一が可哀想だという言葉にも聞く耳持たず。悪徳業者の仮面も見抜けない。 祐一の母にお金の無心をしていた話もショックを受けた様子だ。本意は罪悪感を和らげるための母への気遣いであり、母も本当はそれに気付いていながら自分の気持ちを誤摩化すため被害者面してるだけだと思う。祐一は本当に不器用で分かりにくい。最後の首を絞める行為の意図も解釈が割れてしまっているのは演出の問題ではなく、人が人を理解できない本質的な問題だと思う。 タクシー運転手が祐一を悪人だと言う。光代は世間的には悪人なんですよねと返す。運転手の言う悪人と光代の言う悪人が同じ意味だとは思えない。運転手(世論)は悪人と言ったが、殺人犯全てが悪の権化であると思っているはずもなく、情状酌量の余地がある犯人もいることを当然彼も知っている。他人事の事件に対して深い考察もなく安易に言葉にしただけだと思う。 一言に悪人と言っても、その言葉に込められた思いや意図はそれぞれ違う。彼は悪人なのか、誰が悪人なのか、その答えは自分の頭の中にしかないと思う。言葉にした時点でその答えを共有するのは不可能なのだから。 【エウロパ】さん [DVD(邦画)] 8点(2014-02-23 20:00:55) (良:1票) |
117.《ネタバレ》 九州の片田舎で暮らす無口で不器用な土木作業員が、出会い系サイトで知り合った保険会社のOLを痴情のもつれから殺してしまい、同じく出会い系サイトで知り合った紳士服店に勤める内気な女店員と結託して、ゆきずりの逃避行を繰り広げるという社会派クライムサスペンスラブロマンス。まず役者の皆さんはそれぞれの持ち場で相当がんばっていると思うのだが、この映画の押し付けてくるメッセージらしきものが全くもって気に食わない。私のおしゃまなバイアスを通してこの話を要約すると、地方都市の閉塞感に耐えながら心を閉ざして生きてきた可哀想な妻夫木君は、出会い系を使った買春まがいの行為でガス抜きをやってきた中で、勢い余って小面憎い銭ゲバビッチを1人ぬっ殺しちゃったんだけど、深津さんという「大切な人」と出会って「失うもの」が出来たんだからもう悪人じゃないよね、と言っている様にしか思えないのである。そもそも「大切な人」がいなくて何が悪いのか?「失うもの」が無くて何が悪いのか?そんな人間はみんな犯罪者予備軍か人殺し以下の悪人だと言いたいのか?とんでもない暴論ではないか。余りに馬鹿馬鹿しくてテーマに関してはこれ以上触れても不毛なので、私の個人的嗜好のバイアスを通してこの話を更に要約すると、車から蹴り出された満島ひかりが鉄製のガードレールに顔面を強打するシーンの為だけに存在する映画である。愛の逃避行の行く末とか心からどうでもいい。ちなみにこの顔面強打シーンは短いのだが、角度を変えて2回出てくる所がポイント。蹴り出されるタイミングと速度、ガードレールに当たった時の音、当たった後のリアクション、どれをとっても完璧という他ない。最初に地上波で観た時に大笑いしたので、このシーン観たさにCSで録画し直して、このシーンだけを何度も巻き戻して繰り返し観ている。落ち込んだ時とかにこのシーンを観ると、鬱屈が晴れて明日もがんばろうという気分になれるのである。 【オルタナ野郎】さん [CS・衛星(邦画)] 5点(2013-01-16 14:49:48) (良:1票) |
116.《ネタバレ》 ちょうどTVでやっていたのを録画して観ました。実は私はこの映画を観ようとして途中で挫折した過去が2回あります。なぜでしょうか、引き込まれるものがなかったのか、単に時間がなかったのか、とにかく自分の中で中途半端で終わってしまっている作品でした。 で今回ようやく最後まで鑑賞できたわけですが。。。率直に言ってあまり魅力を感じるストーリーではなかった。暗い映画なら暗い映画なりに魅力はあるものですが、『悪人』にはそれもさして感じませんでした。そもそも清水(=妻夫木聡さん)に全く魅力を感じられなかった。「嘘をつくな」とか「怖かった」とか彼の言ってることは一応正論で正直である。 しかし正論吐いて正直であればみなOKというほど世の中甘くはない。実際やってることはただの子供。いわれの無い罪で訴えるといわれて動揺するのはわかるが、それで殺そうとするのは、当たり前だが間違い。それだってそもそも場当たり的に人を求め、嫌がってるのに携帯で裸を撮影なんてしたばかりに、最初の女性(=満島ひかりさん)に気持ち悪がられるからである。自業自得とも言える。私はそう思った。 その最初の女性にしても冒頭からあまり良い性格ではないのがうかがえた。友人に対する接し方や清水に対しての応対でもそうである。だのに被害者になったというだけでやたらとその後の描写を美化することにとても抵抗を覚えた。殺害現場で父親の前に現れた姿も、さも清純無垢な少女が殺されましたと言いたげな表現であったが、そこで辟易とした思いを私は抱きました。娘を殺された父親が死後も娘をかばいたい気持ちはわかるが「お前は何も悪くない」というのはやや盲目すぎやしないだろうか。 ラストで光代(=深津絵里さん)が締めくくったように、彼は『悪人』だったのである。それならそれなりの映画の作り方があったと思うが、話を美化しようとする動きがあまりに目につき、鼻についたために、私はこのような評価となりました。 TV版鑑賞ということで、カットされていたシーン等もあったかもしれませんがそれを含めての評価ということで、あしからず。 【TANTO】さん [地上波(邦画)] 4点(2012-06-25 14:02:17) (良:1票) |
115.《ネタバレ》 脚本、破綻してるでしょ、この映画。 でも、巷じゃ評価高いんだよなあ。 まあ、いいや。正直に感想書いとこう。 まず、「出会い系」「金髪」「分不相応の高級スポーツカー」これだけ揃った主人公が「純愛」って、どう感情移入しろと? おまけに、大した理由なく人殺してるし。 大学生の方が、よっぽど感情移入できた。 ちょっと知ってるイイ女が強引に車乗り込んできたら、実は酒臭くてニンニク臭くて、さらに金目当てだってわかったら、頭くるってのはわかる。 若いうちなら、そりゃ蹴り出したくなるでしょうよ。 それから、主人公と逃げる女が、主人公に惹かれるのも、全然説明不足。 わけわからん。 ダメな若者の親が、妙にいい人なのもわからん。 おまけに逃避行の最後は、人気のない灯台で、寒さを凌ぐために抱き合ってって、コントですか? 後半1時間は、「どうでもいいから早く終われ」って思ってた。 全編が陰鬱で脚本もいいかげん。 「昭和の映画の悪い部分だけ引き継ぎました」って感じ。 【まかだ】さん [DVD(邦画)] 2点(2012-02-19 10:22:17) (良:1票) |