1.《ネタバレ》 かつて売れない画家だった銀座の洋品店の店主(千田是也)は、店の二階を客寄せのためにギャラリーに改装する工事を始めています。数年前に妻を亡くした彼には娘(左幸子)がいて、親の血を引いたのか彼女もオブジェを造ったりするグループに所属して芸術活動に余念がありません。恋人が所属する売れない画家グループのために彼女はギャラリーのこけら落としに彼らの展覧会を開こうと提案しますが、そこはお金が絡むことでもありことが上手く進みません。 登場人物たちの心の声をモノローグで聞かせる撮り方は、単純な手法だけどなかなか面白かったです。ふつう男女が相手を異性として見れば、なにかの感情が頭の中で湧いてくるのは動物の本能みたいなものですからね。銀座のシークエンスはセットで撮影されていますが、雰囲気はルネ・クレールなんかの戦前のフランス映画みたいな感じがします。洋品店と向かい側の喫茶店だけのセットですけど、それぞれの店の一階と二階から見える道路を挟んだ向かい側の光景が印象的に使われていました。さすが才人・中平康だけあってこの若さでフランス映画のエスプリを完璧にマスターしていたと言えます。登場人物たちが多くて群像劇みたいなところがあるストーリーですけど、その中でもヒロインといえる左幸子の個性は光っていました、この人はやはり天才女優です。そして岡本太郎や東郷青児といった有名画家が本人役で出ているのも楽しい、岡本太郎なんてまさに“岡本太郎そのもの”といった存在感でした。 でもそのフランスではヌーヴェル・ヴァーグが始まろうとしていて、同年代のトリュフォーやゴダールが頭角を現しだしていたことを考えると、ここが中平康の限界なのかなとも感じます。小津や溝口といった大家ではなく若手監督が撮った映画ですからねえ、こういうところにその後の60年代の興業面だけではない日本映画界が衰退した根っこがあるんじゃないでしょうか。ヌーヴェル・ヴァーグやニュー・シネマの様なムーヴメントがおきなかったのは、映画先進国の中では日本だけだったということは一度分析されてもいいんじゃないでしょうか。