8.《ネタバレ》 ヒロインの女性、元3流舞台女優という設定だが、そこがすごくウマイと思う。
芸術に関わる人間っていうのは、人間として魅力的だが、同時に”わがまま”で、”自己中心的”で、”感情的”で、そして、”倫理観に乏しい”。
でも、それが実は魅力でもある。
芸術家たちに破天荒なひとが多く、同時に異性のエピソードが多いのはそのせいだろう。
(ピカソとか、ゴーギャンとか、クリムトとか、・・・)
ヒロインは、最初の結婚時に、不倫をして、夫を悲しませて子連れシングルマザーとなった。
釣りなんて興味なんてないのに、今の夫と結婚するために興味あるふりをして再婚した。
そのようなムリのある結婚がうまくいくわけもなく、彼女は海のライフセーバーの男が劇作家志望だと知って、あっというまに年下男に打ち解けて、将来の再婚相手とさえ妄想に走ってしまう。
夫への罪悪感なし。
ライフセーバーが夫の娘に気があるのを知ると、彼女に嫉妬の炎を燃え上がらせる。
彼との再婚を望む気持ちが前のめりになり、高価な誕生日プレゼントを渡して引かれてしまえば彼の前でブチギレる。
息子の放火グセを治そうとカウンセリングに通わせるが、そのお金は夫のお金を盗んで使う。
ライフセーバーとのデートの約束優先で、息子をひとりでカウンセリングへ行かせちゃって、息子は二の次に。
こうして整理してみれば、この映画の中でヒロインはどうしようもないほどのクズっぷりであるが、なんだろう、この女性像の悲壮感。
これだけダメダメ女房なのに、ケンカしたあとに自分から折れてやった夫は彼女に「今度釣り一緒いくか?」と声をかける。
彼女は、いろいろもがいてきたけど結局このパっとしない話しも合わない中年夫とうまくやっていくのが残された唯一の道なんだと悟って「YES」と答えるのかと思いきや、それでも「NO」とつきつけて、この映画は幕を閉じる。
「あぁ、こうして彼女はこの狭い土地の中で、これからもずっと、話しの合う若い男性と出会って不毛な関係を結んでは、また相手を失って偏頭痛とお酒とヒステリーを繰り返すんだな・・・」と、なんともいえない閉塞感。
でも、とても現実的な話で、彼女の家の前で来る日も来る日もグルグルと回る観覧車のように、こういう出会いと別れのパターンをグルグルと回り続ける無限ループに囚われもがき続ける人たちはこの世界にたくさんいるのだろう。(特に芸術家タイプ)
だからからこそ、このような作品が生み出され、共感する人も多いのだと思う。
ウッディ・アレンのリアル恋愛劇は、いつもヒリヒリさせる。