97.《ネタバレ》 映画作品だけれど能の世界のようでもあり、独特の雰囲気は原典シェイクスピアの舞台劇と通底するものがあるのかな。いつもより大きな芝居の三船敏郎に、それこそ面を被っているような山田五十鈴。 心の奥底にあるモノを「言葉」にして表されると、人は絡めとられてしまうものなのですね。“物の怪”の予言にすっかり支配された鷲津と三木。正常な思考を持っていたのは三木の息子のみ。曰く「自分から進んで予言通りに事を行い、予言が当たったと思っている」。しかし息子の金言も親父には届かず、馬一頭逃げ帰ってきたことで三木親子の凶事が判るシーンは簡潔ながらも「ああやはり?」とぞくっとしました。 確かに無くはなかった権力への野望。それを唆す化け物は、森で出会わずとも身近なところに妻という形でいたのです。鷲津はツイてなかった。 初めこそ凛々しい武者顔だった三船が憑かれたように形相を変えてゆく姿が酷く、印象的です。 本家シェイクスピアの舞台劇は観ていないけど黒澤の蜘蛛巣城は観た、ということで単位をもらえそうな気がしますよね。見事な黒澤版マクベスでした。 【tottoko】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-06-23 23:19:40) (良:2票) |
96.セットや映像は素晴らしいが、所々テンポが悪い。音声の状態が悪いので字幕は必須。 【eureka】さん [DVD(邦画)] 7点(2011-06-19 15:55:20) (良:2票) |
95.《ネタバレ》 シェイクスピア劇と言っても、要は因果応報の話であって、登場人物の誰にも感情移入できないのが痛い。霧の中から城が現れる幻想的なオープニング、動く森、降り注ぐ矢など、画的には凝っていて印象に残る。が、黒澤時代劇では、『用心棒』や『七人の侍』のような娯楽作の方が個人的には合っている。 【フライボーイ】さん [DVD(邦画)] 7点(2007-12-23 11:45:14) (良:2票) |
94.“滅びて初めて事物は完成される”という仏教観念がある。滅び消え去れば全てのものは浄化され、完璧な美を得る。それは金閣寺の焼失を描いた「炎上」でも描かれたことだ。私は「滅び」というものが持つ、冷徹ながらも公平な力が好きだ。対象の持つその莫大な量のログを残しつつも全てを浄化し、表面上において一律の等価に帰してしまうその美しい暴力。その力に掛かってしまえば、善であろうと悪であろうと何であろうと全ての貴賤は失われ、純化した観念だけが残る。滅んでしまったものは文句なく圧倒的に美しい。この作品で描かれるのは、つわものですらない浅はかで卑小な者たちの“妄執の夢の跡”。愚かしい人間の業の絵巻。私が見たあの“ことの一部始終”は、蜘蛛巣城跡に今も潜む妖婆が悪戯に見せた幻かも知れない。本質的に業を抱えた者だけが見ることを許される白昼夢。私が見たのは、あの土地に残された莫大な量の妄執のログなのだ。兎にも角にも廃墟写真集なんぞを見てうっとりしているような不気味な人間である私にはたまらない作品。 【ひのと】さん 10点(2004-06-21 14:26:29) (良:2票) |
93.今年(2024年)は、日本の時代劇文化にとっては分岐点となり得る一年だった。 何と言っても最大のトピックスは、アメリカで真田広之が手掛けたドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」が、エミー賞受賞をはじめ世界を席巻したことだろう。勿論、「SHOGUN 将軍」自体は日本産の時代劇ではないけれど、“時代劇”を経て俳優として大成した真田広之が、多大な熱量とこだわりをもって創り上げた作品が、国境も時代も越えて、人々の心を掴んだことは、やはり“時代劇”としての快挙だと思う。 一方日本国内でも、「十一人の賊軍」や、未見だけれど「侍タイムスリッパー」など意欲的な時代劇作品が制作され、評価を得ていることは、長年新旧の“時代劇”を好んで鑑賞してきた一映画ファンとしても嬉しい。 そんな折、秋深まる深夜、古い時代劇を観ようと、黒澤明監督の「蜘蛛巣城」に行き着く。 ウィリアム・シェイクスピアの「マクベス」を、日本の時代劇に置き換えた本作は、まさにシェイクスピアの舞台劇そのものだった。(まあ、シェイクスピアの舞台なんて観たコトはないけど) 自然風景の描写の中を舞台劇のように幾度も行き交う演出や、三船敏郎をはじめとする俳優たちの意図的なオーバーアクトがとても印象的だった。独特のテンションやリズムは、強烈な違和感として観る者を引き付け、物語の主人公同様に異世界への引き込まれたような感覚に陥った。 三船敏郎演じる鷲津と、その妻・浅茅を演じる山田五十鈴が、掛け合うシーンは特に舞台劇のようであり、「能」の表現を取り入れた演出も融合し、異様な空気感を醸し出していた。 なかでも、山田五十鈴の風貌と演技が「奇怪」そのものであり、彼女の強硬な野心を秘めた助言と誘導が、主人公を破滅へと導く展開がとても不気味だった。 黒澤明監督らしい、自然のロケーションを最大限に用いて映し出される映像世界は、モノクロの古い映像でもありながらもその優雅さと豪華さを存分に感じさせる。 白眉だったのは、三船敏郎演じる主人公らが山林を馬で駆け巡るシーン。雨、風、霧といった自然的要素を画面の中に躊躇なく盛り込み、人物の心理を巧みに表現すると共に、当時の撮影技術の高さと俳優たちの力量を如実に感じさせてくれる。 ただし、その一方で、場面展開が鈍重で、深夜帯の鑑賞時間において瞼が重くなってしまったことも否定できない。 黒澤明らしい唯我独尊的な自然描写や独特な空気感が、ストーリー展開の停滞として感じてしまったのだろう。自分自身、もう少し体調も含めて鑑賞環境を整えて鑑賞すべきだったなと反省している。 とはいえ、“時代劇”の復権の兆しは嬉しい限りだ。今の時代に日本国内のみで、黒澤作品レベルの潤沢な製作環境を得ることは難しいだろう。しかい、逆に今の時代だからこそ、真田広之が成し遂げたように、海外資本を上手く利用して理想を実現するプロセスがあることも事実だと思う。 熱量に溢れた“時代劇”が再び量産されることを望まずにはいられない。 【鉄腕麗人】さん [インターネット(邦画)] 6点(2024-11-25 21:51:47) (良:1票) |
92.巻頭の蜘蛛巣城跡の史跡と背後に流れる能の謡(うたい)が純日本的な雰囲気が醸し、画面は一気にタイムスリップして蜘蛛巣城があった頃の迷路の様な原始林を駆ける二人の武将の騎馬の姿に焦点を合わせる。。。ここまでを事前の情報なしに見たならばこれがシェイクスピアの戯曲に基づいていた物語だとは誰も思わないでしょう。でもわたしが読んだシェイクスピアの「マクベス」の解説書には本作品が「マクベス」の映画化作品、しかも英語圏で作られたどの舞台・映画作品よりも原作のテーマと雰囲気を再現しているといる作品として紹介されているのです。そして二人の武将が運命のお告げを聞くシーン、原作では荒野で邪教のぎしきを行う魔女、本作品では原始林で系を紡ぐ山姥。。。どちらもイギリス(スコットランド)と日本の風土と文化を反映した設定ですが魔女はヨーロッパの原始宗教の産物でイングランド人はもちろんカトリックに染まった近代スコットランド人は「おやおや、こんなのが言うことを信じたらまずいのでは。。。」と思うはず。。。でも清教徒の天地だったアメリカでも魔女狩りが行われたほど土着の異教は英語国文化の根底に巣食っているのです。かたや山姥は日本古来のアニミズムの象徴的存在です。近代の自意識や秩序への信頼感と潜在意識に巣食う原始宗教のせめぎ合いが伏線として提示され、物語は武将鷲津(マクベス)と主君との関係に象徴される近代的秩序と山姥に象徴される原始的野望のせめぎ合い、そして運命をテーマとして展開していきます。舞台を前近代のスコットランドから戦国時代の日本に移したからこそシェイクスピアが意図した人類共通の真実がより効果的に炙り出されたのかもしれないと思った次第です。 【かわまり】さん [DVD(邦画)] 9点(2020-03-13 05:18:19) (良:1票) |
91.《ネタバレ》 黒澤の凄さだけでなくシェイクスピアの凄さも理解できた映画だった。 森が動く!という伏線と展開は原作と同じであり、そのトリックは意外性があって楽しめた。 原作執筆から何百年もたっているが、面白い作品は何年経とうが面白い。 黒澤の能を取り入れた演出も素晴らしい。登場人物たちの動きがなんとも妖しく不気味だ。 ホラー的な表現も黒澤は十分に出来るということがわかる。ダイナミックな演出のみに終わらぬ多彩な表現能力を持つところはさすが世界の巨匠。 たくさんの方が触れているが、あの弓矢のシーンは凄いとしか言葉が出てこない。 素人に毛が生えた程度の学生に矢を射させたというから、三船が本気で怖がるのもむべなるかな。 数ある黒澤映画の中でも特に有名なシーンであり、私も大好きな場面だ。 【nakashi】さん [ブルーレイ(邦画)] 9点(2018-08-25 15:34:59) (良:1票) |
90.《ネタバレ》 黒澤×シェイクスピア、第1弾。 ご存知「マクベス」の時代劇版。 これが後の「乱」へとつながっていく。 もう天才と言うしかない。 黒澤監督は30作、世に生み出しているが、どれも傑出している。 こんな才人はもう日本から出ないのではないか? 映像良し、ストーリー良し、静と動のバランス良し。 ただ「マクベス」を知らぬ人で、会話が聞き取りづらい人には、 あまり高評価はないかもしれない。 黒澤さんの作品でよくしゃべる映画は字幕で観たい。 ポイントのマクベス夫人を山田五十鈴が演じるのが凄い! 【トント】さん [DVD(邦画)] 8点(2018-04-14 18:05:40) (良:1票) |
89.《ネタバレ》 所謂、城というよりは野戦砦や館に過ぎないので、歴史を彷彿とさせるその殺伐とした雰囲気が出ていたのはよかった。もうちょっと山間部で撮影してもよかったような気もするが。ただし、主人公の心情変化の描き方は雑だし、奥さんや化け物に唆されてという流れと本人の野心が混在してしまって、下克上と忠誠・忠臣との葛藤がうまく伝わってこない。演技が仰々しくて派手なので小心者には見えないし、でも一応は悩んではいるようだし・・・。で、結果的に三船のひとり芝居だけの作品になってしまっている。ラストシーンは印象的ではあるが、あれだけやられると逆に顔にだけ矢が刺さらないのが不自然にも思えた。 【東京50km圏道路地図】さん [DVD(邦画)] 5点(2016-03-28 16:07:06) (良:1票) |
88.おそらく映像美としては黒澤最高作だろうが、これ音もいいんだよ。旗さしもののパタパタいうのから、矢の突き立たる音まで、なんというか、中世の渋い音が満ちている。一番はマクベス夫人の衣擦れの音ね。主人殺しの槍を持ってくるとことか、ほんとに音だけで怖い。浪花千栄子の魔女の声もある。『羅生門』の巫女でも男声を使ってたが、ああいう効果がある。演出としては、モノノケの家がワンカットの間に取り除けられる、なんてのをやってた。マクベス夫人の視線の演出も凄い。話し相手には向けられない。いつもどこか虚の一点を見詰めている。旦那の目を見てものを言うのは「酒を見張りの者たちにつかわそう」と、言外の意を含んでいるとき。真意を眼で告げているわけで、「企む女」の演出がここにキマる。謀反の瞬間は、夫人の所作のみで見せていた。ほとんど舞いである。黒澤の能好きが一番生かされたフィルムで、異なる芸術分野がひとつの作品に理想的に結晶した稀有な例であろう。 【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 9点(2012-11-06 09:59:00) (良:1票) |
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87.《ネタバレ》 このところ、黒澤映画に出始めた頃の三船敏郎を何作か見ていたけど、現代劇より時代劇の方が世界観の中にしっくりと納まる。基本的に、武士という空気を纏っている人だったことが良く分かる。実は奥方が物の怪かと思っていたんだけど、後半は出てこなくなり、いつの間にかノイローゼになっていて残念でした。その欲深い奥方にそそのかされるところが面白かったくらいで、自分にとって他には特に観るところなし。真面目で忠勤に励んでいた武士が権勢欲に囚われ道を踏み外すような描かれ方だけど、戦国の世には普通にあることで特別とは思わない。いわゆる芝居がかったというか、歌舞伎の舞台でも観ているかのような間の取り方とか葛藤の見せ方にはちょっと辟易しました。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(邦画)] 4点(2011-01-01 15:33:56) (良:1票) |
86.《ネタバレ》 メッセージ性は十分伝わるのだが、間延びした感は否めない。オカルトシーンもそこまで大したことはない。ただ、山田五十鈴の存在感は素晴らしかった。 【TOSHI】さん [DVD(字幕)] 5点(2009-01-02 09:50:01) (良:1票) |
85.《ネタバレ》 日本版「マクベス」は大成功ですね。本家の物語は、11世紀スコットランドに実在した”名君”マクベスがモデルになってますが、それを五百数十年後に悪者に仕立ててしまったシェークスピアの罪は別にして、すぐれた人間心理の描写があり、物語としては非常によくできたものだと思います。本作もそのプロットを踏襲し、時代を戦国時代に設定したことは、武将の功名心と潜在的な下克上への嫌悪感とを描くことに大きく貢献しています。また、シェークスピアの洞窟の魔女よりもなじみ深い”化生の物”が棲む森というのも、後の展開への大きな伏線となっております。モノクロであるが故に、映像の迫力が伝わるともいえるでしょう。これは岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」(1967)でも言えることで、あえてモノクロを選ぶことで血生臭い迫力がより強調されるのだと思います。”謡い”を挿入することで、より日本的な伝奇性を醸し出すことにも成功し、先の展開がわかっていながら(「マクベス」の読者ならきっとそうでしょう)引き込まれる展開にワクワクすることでしょう。私は、浅茅の方が武時に大殿を殺せとそそのかすシーンのあと、事後に三船敏郎がどのような戻り方をするかに興味がありましたし、浅茅の方が手を洗い続けるシーンがいつ出てくるのか待ち遠しかったです。また、森がどのように動くのだろうとも期待して観ておりました。そしてクライマックスの”矢だるま”の演出! 狂気に狩られた非道の君主の最期としては、これほどふさわしい結末もありますまい。後の「影武者」や「乱」にも本作のエッセンスは見受けられますが、すでにこのような完成度の高いものができてしまったあとは、物足りない印象はぬぐえません。お見事! <以下蛇足>音声が聞き取りにくいという方は、ぜひDVDでご覧ください。日本語音声に日本語字幕というのは違和感を感じるかもしれませんが、台詞をそのまま文字に起こしているのでなじめます。 【オオカミ】さん 10点(2004-04-24 10:09:49) (良:1票) |
84.絢爛豪華な衣装、物怪や能面を模した奥方の表情・・・本当に美しくて怖い映画。黒澤明の演出家としての力量再認識した。特に冒頭「蜘蛛巣城跡」と書かれた棒っ切れに霞がかかって、その霞が、ざあっと晴れて巨大な蜘蛛巣城が現れる、あの瞬間は鳥肌が立った。そしてラストシーン。分かっていても、三船の恐怖の表情を見ると「おおっ!ミフネ様が!マジでミフネ様が死んでしまう!!」とドキドキした。どっちにしろもう死んでますが。「七人の侍」の「雨の決戦」に勝るとも劣らない名シーンでしょう。 【C-14219】さん 7点(2003-11-19 21:12:41) (笑:1票) |
83.ネタバレあり。【月麻呂】さんのご指摘通り、全編が凄い映画。観出したら止まらない!のカッパエビセン。何度、そのドツボにはまったか。もののけ老婆のシーン、相方が幽霊になってやって来るシーン、山田五十鈴が闇に消え行くシーン。落ちない血糊を洗うシーン。そしてラストシーン。三船は自分そのものだ。自分の弱さや醜さを突きつけられるから、この映画は怖いのである。嗚呼!今夜も「もののけ」に誘われ、観てしまいそうだ。 【すぎさ】さん 10点(2003-06-16 23:42:17) (良:1票) |
82.《ネタバレ》 本作を初めて見たのは2001年のことでした。その時に自分で取ったメモには「聞き取りずらい台詞・ステロタイプな展開・部下の反乱等の無理のある展開・等の欠陥はあるが、迫力のある映像と緊張感に満ちた演出の傑作」とあり、5段階評価で5を付けていました。 今回見直してみると、時代的制約を大きく感じる結果に終わりました。ま、「歴史的傑作」ということでしょう。 ところで「森が動く」というのがあれというのには頭をひねりましたが、何か物語上の必要性があったのでしょうか?。 【傲霜】さん [地上波(邦画)] 6点(2025-02-13 12:42:07) 《新規》 |
81.心情の表現技法や能を使う演出が面白い。 しかし思い返すと三船敏郎の馬を乗り回したり刀を振り回したり、声を荒らげる姿が最初に出てくる。 物語としては現代人には刺激が足りないのかもしれない。 【さわき】さん [CS・衛星(字幕なし「原語」)] 6点(2025-02-01 17:55:28) |
80.《ネタバレ》 後で調べてみると、そもそものシェークスピアの『マクベス』の映像化としても史上トップクラスの評価…というコトなのですよね。私見ですがソレは、妖婆=原作に於ける魔女と、そして浅茅=マクベス夫人の表現方式にポイントがあった様に思えています。特に浅茅について、彼女を多面性を備えた「人間」として描くより、その邪悪な権力欲や冷酷さのみをより際立たせた一種の「人成らざる者」として描く方が要点が分り易く伝わり易い、その部分に所謂「能」の方法論を取入れて、不要なモノを極限まで削ぎ落した抽象的な表現・演技として纏め上げたコトが、本作に更に高度な幻想み・幽玄みや寒々しさを付与している様に思えたのですね。モノクロで、画質も特に好くはないのですが、何処も彼処も凄い迫力だな…と思ってしまいました(こないだのジョエル・コーエン版『マクベス』にも、少なからず影響はあったのではねーかと)。 他、ラストの弓矢のシーン(+ソコでの三船敏郎の狂態)も確かにスゴかったと思いましたが、あのお城のセットがまたスゴかったですね。引きで全景を映すトコなんか、たぶんもう一生忘れられないと思います(あの寒々しさ・禍々しさ…)。正直、尺的な観易さも含めて、黒澤明でも一番最初に観れば好い作品なのではないでしょーか(『用心棒』とかも短くて面白いと思いますが、ちょっと西部劇的なノリもあるので慣れないと微妙…かとも常々思ったりしてましてですね)。 【Yuki2Invy】さん [インターネット(邦画)] 8点(2024-02-27 10:38:20) |
79.《ネタバレ》 これは戦国時代を舞台とした怪談(オカルト・ホラー)映画じゃないでしょうか。この映画から強く感じたのは“恐怖演出の巧みさ”でした。寂しい荒野に建つ『蜘蛛巣城跡』の木碑、野太い声の男性合唱が不気味。木碑が霧に覆われ、巨大な城に変わることで、観ている者を戦国時代に導きます。『乱』でも圧巻だった重さを感じさせる城。騎馬武者が駆ける力強さ。足軽の走る音。黒澤監督の描く戦国時代表現は、今観ても臨場感がありますね。 冒頭部分の合唱は、鷲津と三木が蜘蛛手の森で迷った際の、老婆の枯れた声の独唱と対になっています。予言を残し、忽然と姿を消す老婆と小屋から、不気味な怪談話へと誘導されていきます。藤巻が自害した“開かずの間”の、血の跡の生々しさ。時鳥の鳴き声。浅芽の歩く衣擦れの音。 この、映画館(私は部屋だけど)から戦国時代へ、更に怪談の世界へと誘導する演出が見事です。 物語を極力単純にする(それでいて飽きさせない)ことで、観るものに余計なことを考えさせない。=現実に引き戻させない。黒澤監督は映画を観るものを、自然とその世界に入り込ませる技術に秀でていると感じます。 終盤、戦に備える両陣営の豪華さと、鷲津の演説に盛り上がる戦演出。鳥の大群が場内に入る不吉な空気と、気が狂った浅芽の怪演出。 最後は娯楽映画として、きちんと驚かせてくれました。有名な無数の矢衾の画は圧巻です。 鷲津の最後は、戦のいち場面でありながら、観るものに恐怖を感じさせ、蜘蛛手の森が動くのは、鷲津の目には怪(道理がない話)でありながら…。凄い。 本作では『“戯曲”に“能”を取り入れる』試みがされていて、開かずの間で密談する場面、鷲津と浅芽の、能面のような、まばたきをしない演出が映えます。 後年の黒澤映画では、役者の顔に寄らない、いわゆる“引き”の画が多くなるため、何か『芸術作品を観せられている』感が強くなってしまったように感じたけど、白黒映画時代の黒澤作品は“娯楽映画”として、単純に楽しめます。 今回DVDで鑑賞。字幕があることで台詞の理解が補強されました。 【K&K】さん [DVD(邦画)] 9点(2024-02-17 11:44:01) |
78.《ネタバレ》 オーソン・ウェルズ版('48)やロマン・ポランスキー版('71)、 ジャスティン・カーゼル版('15)も見てる(ジョエル・コーエン版は未見) 自分としてはキリスト教の教義がわからない分、単純に 「野心と欲望に満ちた男の破滅」を日本的(能や狂言みたい表情演技) なテイストで味付けしている、「マクベス」の映像化として一番面白かった。 好きなのは2点。まず女性の使い方が黒澤明作品史上一番うまい。 女性の美貌というより情念に重きを置いてるのが彼らしいっちゃ彼らしい。 山田五十鈴と浪花千栄子なら当然か。 あとは黒澤明の演出するアクション場面・演出力はこの当時 世界映画史上の才能をもっていた事がわかる、という点。 森林の中を駆け抜ける馬のダイナミズムや有名な弓矢の ラストシーン。それを担っていた三船敏郎の素晴らしさもあるけど 弓矢が一本壁に刺さる、からのあの矢衾(やぶすま)は単純に凄い。 あえて難点をいうと、やっぱり音質。 今回「午前10時の映画祭」での4Kリマスター版で鑑賞。 映像は素晴らしいし、30年前に場末の映画館で感じた時の 「台詞がさっぱりわからない」頃から比べれば凄い改善なのだが、 これは出来たら字幕つけて欲しい。自分の鑑賞時は無かったけど 他のところはどうなのかな。老年に至る映画ファンの為にも、 いろんな意味でのバリアフリーを! 【Nbu2】さん [映画館(邦画)] 8点(2022-12-11 08:54:43) |