8.《ネタバレ》 騙す事の楽しさ、騙される事の楽しさ。それが詰まった「フェイク(贋作)」。
細野不二彦の作品で「ギャラリーフェイク」という漫画があるが、90年代に描かれた漫画に先駆けて70年代にウェルズは「贋作」の醍醐味を映画で語っていたのだ。
ファーストシーンで手品を披露するウェルズ。この場面こそこの映画の全て。自ら「ペテン師」と称し、「嘘」を映像の中で「本物」にしていく作家としての、舞台俳優としての演目。
ファーストシーンが終わって1時間は、稀代の贋作家と稀代の偽作家のエピソードをインタビュー形式で淡々と語る。
やや退屈な1時間だが、ラジオ時代の「宇宙戦争」に関する面白いエピソードやピカソの情事は興味深い。
その後に訪れる17分間の「オヤ」のエピソード。今までの退屈さをなかった事にしてもいいくらい画面に吸い込まれる。どこまでが嘘でどこまでが真実か。
最後まで見ないと絶対に損をする映画です。
この映画のトリックはオープニングから既に始まっていた。
実在の美人モデル、贋作家、偽作家など様々な「フェイク」がインタビュー形式で出てくる。
そこから既に「騙し」が始まっていた。
歳を取っても若い頃の情熱は失わない。
最後まで少年の遊び心で映画を作り続けたウェルズのこだわりが感じられる。
それはラジオ時代の「宇宙戦争」の頃から変わっちゃいない。
白熱した実況で視聴者に「本当に宇宙人が攻めて来たのか!?」と騙くらかしたエピソード。後の猛抗議も、ウェルズにとっては「してやったり」。
映画デビュー作「市民ケーン」もそう。
実在の新聞王ウィリアム・ハーストの「偽物」チャールズ・フォーガスタ・ケーンを産みだした。
その偽物の新聞王を映画の中で「本物」にしていく面白さ。ケーンの壮絶な生き様が「本物」にした。確かに映画の中に生きていたのだから。
「黒い罠」はタイトル通り、観客を騙す「罠」。これも最後まで見ろないとアカン映画だね。
「オセロ」や「マクベス」は心理描写の騙し合い。自分自身すら「騙して」追い込んでいく人間の限界を魅せつける。
ともかく、この作品はウェルズのお遊び精神の結晶の一つ。