2.《ネタバレ》 本日スクリーン最前列で鑑賞しました。私も同感でして、隠れた傑作を発見した気持ちです。いくつか、まず、「作家性を感じさせないところに作家性を感じたところ」に驚きがあり、まぶせさんの素晴らしいコメントのとおり、鈴木監督は非常に手堅く演出をしていると思う。
特に無表情の池部良のシーンは極力科白を排しているのですが、その余白にも科白が流れている。やはり(続けてですみません)、三人が湯河原のホテルに滞在するシーンは際立って良い。
雨の旅館内部屋での三人、襖を閉める池部良、そして布団に横になる(左から、平田・新珠・池部)この構図は見事。三人の関係(出会い・関与・遷移・裏切り)が刻々と変わっていくのですが、このシーンでは新珠の移り気、平田の欲、池部の焦燥を台詞なしで完璧に描写していた。
銀行の組織の暗部をも描いている。
所詮、池部良は支店長クラスの人間、平田昭彦は時期頭取の座の地位に近い常務、この縦社会の構図をも淡々と描いているのも面白い。
終盤、池部良が不正融資をあちこちに触れまわるのだが、ことごとく平田に跳ね除けられる。今ではコンプライアンス機能が動いていれば、すぐさま処罰となるのであろうが、当時はこういう女がらみの不正融資というのはよくあったと聞いていた。
しかも、たしかに不正融資とはいえ新珠三千代の事業が仮に軌道に乗っているのであれば、あのような結末は当然といえるのかもしれない。
『支店長クラスの告発でもって、銀行TOPがグラ付くような組織はたかがしれている。』
正義感のある個人(暖流)を容易く呑み込んでしまう組織の闇(寒流)のようなものが、乾いたフィルムの中に息づいていた。
特に、最後の中村伸郎のあの冷酷な視線は傑作!
池部の復讐が成功に終わったら普通の作品になり得たと思う。