1.鉛筆が折れる。坂道を転がり落ちる。水辺のぬかるみにはまる。平坦な道で転ぶ。
12歳の少女は、ほとんどすべての場面で何かしらの“失敗”をしてしまい、益々自分の中に閉じ篭る。
でも、彼女はその小さな失敗を繰り返す程に成長し、少しずつ新しい世界に踏み出していく。
それはあまりにありきたりな成長譚のプロットだけれど、映し出された映画の世界観はただただ瑞々しくて不可思議。そして忘れられない美しい物語を紡いでいた。
大した期待もせぬまま、予備知識も殆ど入れずに雨の中、レイトショーを観に行った。
ふいに出会った少女たちの一夏の友情を描いたよくある話なんだろうと思っていた。
大筋は間違ってはいないし、似たような話は知っている筈だけれど、まったく新しい「世界」に触れられた気がした。
そう思えるくらいに、このアニメーション映画の表現は新鮮味に溢れ、かつ叙情的だった。
スタジオジブリが輩出した新しい才能は、見知ったジブリ色を根底に敷きつつも、新しい水の色、新しい太陽の色、新しいジブリ色を導き出してみせたと思う。
「あなたのことが大好き」
ふいに出会った少女二人。それぞれに悲しみと憂いを携えた彼女たちは、ある種盲目的にそう言い切る。
はじめそのやり取りは少々稚拙で安直に見える。
記憶の中で幼女時代の主人公が抱える人形の背中が、それに拍車をかける。
結果、それは見事なミスリードだった。
「大好き」と言い切れることの真意。それが描き出されたとき、この映画がありきたりなファンタジーを超えた「邂逅」を描いていることを知り、涙が溢れた。
主人公の少女は、自分は「普通」に生きられないと思っていて、「普通」という輪の外側にしかいられないと思い込んでしまっていた。
きっとそれは、彼女の辛い過去に起因するばかりではなく、誰しもが辿る思春期の少女の葛藤だろう。
一夏の“思い出”と、長らく封印されていた“記憶”がリンクしたとき、その思い込みは解放され、鉛筆書きだった彼女の絵には鮮やかな色彩が生まれた。
「なんだ、良い映画じゃないか」
降り続く夏の雨の中、家路に就きつつそう思った。