6.近松門左衛門に井原西鶴を取り入れ、さらに脚本家の依田義賢の独創を加えて作り上げられた、非常に緊密な脚本。
驚くべきは、その緊密な脚本を芸術にまで押し上げた溝口健二の腕前。
映画に芸術という言葉が当てはまるなら、まさにこの映画がそれでしょう。
溝口映画にしては晦渋さがなく非常に口当たりがよい。
溝口映画初心者にはうってつけの作品といえそうだが、それにもかかわらず、芸術的な完成度はとてつもなく高い。
問題なく10点と言いたいところだが・・・・・これを他の監督が撮ったなら何の問題もなく10点でしょう。
でも、溝口映画としてみたら、非常に天の邪鬼な言い方になるかもしれないが、きれいすぎる。
「祇園の姉妹」や「西鶴一代女」のように、荒削りだろうがなんだろうが破綻もかまわずぐいぐい突き詰めて行くような、溝口独特の気迫と言うか執念がやや薄い。
きれいすぎるというただその一点のために、大溝口に敬意を表して、10点に限りなく近い、辛口の9点。