1.原作未読では初っ端から置いてきぼりを食らう。
序盤の三十分くらいはストーリー以前に、基本的な人間関係すらさっぱり掴めない。多くの人間が出る割に、あまりにも登場人物に対する説明が不足し過ぎている。
と言うよりも、この端折り方は映画化する上での「手抜き」と言うものだろう。原作の問題だとしても、その分かりにくさを解消しようとしていない地点で、監督に基本的なセンスが無いと言わざるを得ない。連続ドラマやアニメの完結編じゃあるまいし、単独の作品なら原作未読の人でもストーリーに入り込めるように作るのが前提だろう。「分かりにくさ」にも、「情報量の多さからくる分かりにくさ」と、「情報不足からくる分かりにくさ」の二通りがあるが、これは後者の典型。
とにかく、見ている間、こいつらは今、何の目的で、何を思い、何をやっているのかという動機や心理的背景がさっぱり掴めない。途中の現金運搬のシーンも意味不明だし、上司が車内で自殺するのも意味不明。ラスト付近も省略しすぎ。物井清三(渡哲也)以外の犯人たちはどうなったんだ?上映時間の問題があったとしても、エンディングと共に後日談を出すくらいは出来たはず。
ところが、その分、人間ドラマや心理描写が優れているかと言えばまるでそんな事も無く、いかにもこの手の「社会派サスペンスのためのキャラ設定」といった感じで、それぞれが生きて動いていない。有名どころを使っている割に、その演技も何故か大根に見えて仕方が無い。
ストーリー自体もグリコ森永事件を踏襲していたり、部落差別や在日朝鮮人、企業の利益供与事件など、複数の重々しいテーマを盛り込んだ安直な題材の選択が癇に障る。著者本人は「群像社会派サスペンス」を気取っているのかも知れないが、そのせいで、どのテーマも追求されず、それぞれが中途半端なままで放置されている。
画面に出る登場人物の役名も小さすぎて読めない。音量バランスも悪く、ぼそぼそ話すシーンで何を言ってるか分からないのでボリュームを上げると、すぐ次のシーンではやたら効果音がデカくなったりと、とにかくストーリー以前に、もっと基本的な部分で「観客に対する気配り」が無く、終始イライラさせられる。
とにかく原作を踏襲する以前に、「映画は観客ありき」と言う前提を忘れている。