1.三十年、三十本を超える劇場版クレヨンしんちゃんシリーズは、それなりに出来栄えにバラつきはあって、最高傑作群と比べると大きく見劣りする作品も少なくはない。それでも、それぞれ独自の楽しさなり美点なりは持っていて、とことん失望させられたという経験はなかった。だが、残念なことに今回で不敗神話は終焉だ。3Dということでシリーズに含めないことにしてもらえないだろうかという思いすらある。
まず、ディテールから。
動きのスピード感がなさすぎる。このシリーズのキモが高速の追いかけっことスラップスティックだというところが全く理解できていないのではないか。ゆるーいノスタルジー基調の『オトナ帝国』でも、そこはしっかり押さえていたぞ。
次に、暴力描写が酷い。シリーズ中期でも、やはり残酷な暴力描写が問題になった作があったが、ざらつき感はさらに上回る。
そしてラストが醜い。ポスターにまで社会的メッセージを謳っておきながら、三流政治家でもやらないようなこの雑なまとめ方は何なんだ。全部のセリフがダメとは言わないが、全体としてあまりに押しつけがましく、饒舌。このシリーズは毎回“感動”が売りで、だから私はそこをキレイさっぱり排除した『タマタマ大追跡』や『温泉大作戦』の潔さが好きなのだが、かといって少しあざとく泣かせ場を仕込んだ『ラクガキング』も嫌いではないし、『ロボとーちゃん』は悪役設定のグダグダぶりに目をつぶり最高傑作認定している。要は楽しさ優先だが、そこを抑えたうえでのお涙頂戴もウェルカム。でも、この映画はどちらも不発だ。
これも題名を伏すが、メッセージ性が強めながらクライマックス突然の大ミュージカル調に転じた作がシリーズ後半、数年前にあった。登場人物が「そんなことで平和は来るものか!」と叫ぶが、踊りに飲み込まれていく。ここでは確かに本質的な解決は示されないが、替わりにうさんくさいおためごがしを示したりはしなかった。むしろ正義を押し付ける独裁には断固として、ただし非暴力で抗うという姿勢だけはきっちり打ち出したあたり、本作とは真逆といえる。
初参加の監督はもともとこういう体質の人だったのだろうが、プロデューサー陣には反省を求めたい。このシリーズは家族愛連呼という強いバックボーンがあり、それ自体はもちろん正しいものだが、このご時勢いろんな方向へ振れてしまいそうな危うさも秘めているのだ。