4.タイトルは『フォードvsフェラーリ』であって、実際に題材もそうなんですけれども、でも何かちょっと違う。
高級車フェラーリに大衆車フォードが挑む、という図式だけど、では一種の「下克上」かというと、むしろ正反対。資本力ではフォードの方が圧倒的で、金に飽かせてル・マンに乗り込んでくる。
主人公のひとりであるマット・デイモンはまだしも、もうひとりの主人公であるクリスチャン・ベールはカツカツの生活を送っていて、このフォードとフェラーリとの対決の物語において、当然、中心的な存在になるのであろうとは予想されるものの、いくら物語が進めども、いつまで経っても蚊帳の外。本人が偏屈なこともあって、なかなかこの対決に絡めず、見てる我々もヤキモキする。
だから、これは、クリスチャン・ベール演じるケン・マイルズにとっての、「下克上」の物語。
いくつかのレースを経て、クライマックスである本番のル・マンが近づいてきても、「さあ、いよいよ!」などと煽るような演出も無く、むしろ淡々と開始しちゃうのですが、それは逆に言うと、迫真のレースシーンの演出に自信があってこそ、とも言えるでしょう。いざレースが始まったら、その緊迫感に、目が釘付け。
レース会場でもヘリで移動したりと、何かと派手なフォード2世。打倒フェラーリに向け、フォード側のチームとしてレースを戦う主人公ふたりだけど、本当に彼らを理解する者は、本当にレースを愛する者は、一体誰なのか。
この映画には、夕日や夕暮れのシーンが、再三登場します。もともと“黄昏”の映画なんですね。で、ラストはケン・マイルズの家の前。そういやこの芝生の前でかつて、ふたりは取っ組み合いしたんだっけ、などと思うと、観ている我々もどこか、懐かしさのようなものを感じてしまう。
夕日。