2.全編ワンカット(風)、とか言ってるけど、途中、主人公が気絶するので、全編ツーカット(風)です。だからどうという訳でもありませんが。
戦争映画というと、どれだけ派手にスペクタクルを演出するか、がキモみたいなところがありますが、本作は比較的その点、抑制されています。むしろ静かなシーンが多いとも言える中、代わりに、打ち捨てられたような無数の死体とか、人間を後目に我が物顔のネズミたちの姿とかが、戦争の恐怖を物語っています。加えて、どこまで続くとも知れぬ塹壕が示す、戦争の巨大さ。
上空からの俯瞰で一気に規模感を示すのも一つの手ではあるのでしょうが、本作では主人公とともにカメラも地を這い続けることで、この映画ならではの規模感を出しています。
はたまた、主人公の移動に伴って画面に登場する、様々な光景。ときには、この近所で本当に凄惨な戦いが繰り広げられているのだろうか、と思わせる牧歌的な平原も登場しますが、それでもドンヨリとした雰囲気が晴れることは無く。
かつてヒッチコックが『ロープ』でカット割りなし映像に挑戦した時は、「いかにカットを割らずに、カットを割ったような効果を上げるか」みたいな、もはや意味不明の努力にハマりこんでいたようなところがありましたが、本作も、サテ、このワンカット風の映像がどこまで効果的なんだろうか、ってな面はあって、しばしば作品の制約にもなってます。例えば、作品に赤ん坊が登場したら、やっぱりカメラがその表情を捉えて欲しい、と思うのが人情ですが、ワンカットの制約下ではそういうこともできないし。
一方で、上述の塹壕の表現などはワンカットならではだし、飛行機の墜落シーンなどもワンカットと(おそらくは)CGとの組み合わせで独特の緊迫感を出しています。
そして何よりも、あの、出撃する大勢の兵士たちが走っていく中を、主人公だけが異なる方向に走り続けるシーンの、印象的なこと。直前までボロボロでヨロヨロだった主人公が一人、周囲を異なるベクトルを持ち、人とぶつかってこけつまろびつ、いやむしろぶつかるたびに走りの力強さを増していくようなその姿。これは、本作の白眉と言ってよいと思います。