1.神話化の裏にある俗物的な部分がちろちろ見えるのが興味深かった。官尊民卑的なところがあった、との川口松太郎発言は、単純に「底辺からの視点」って誉め言葉でくくって済ましてしまう評価をえぐる(19世紀生まれの人の限界ということか)。中国へ行くときは将官待遇でなきゃやだ、とゴネたとか。あるいはヴェネチア映画祭のホテルで香を焚いて入賞を祈ってた、なんてのも面白い。なんとなく泰然とした印象を醸してた裏に、そういう人間味もあった。もちろんそういう人間だからこそ、あの美しくもネットリとした奥行きのある世界を構築できたのだろう。具体的なシーンについて発言しているときは、もっとオリジナル作品の映像を取り入れてほしいところだが、著作権とかで難しかったのか。ときにインタビューに誘導気味のところがあるような気がした。『雨月物語』の森の帰宅シーンの気合いの入り方を語る田中絹代のシーンは凄味があった。ぎりぎりのところで仕事をした人の貫禄と言うか。森さんがふっと煙草をくわえると、監督自らがライターを点したそうな。映画のそのシーンも美しいが、撮影現場のそのシーンも劣らず美しい。依田義賢が『雨月』『近松』はちょっとすましているところがある、と発言しているのには、なんとなく同感。