5.「人形に心が宿る」という設定に対して、勝手にファンタジックであたたかな映画を想像してしまっていた。
これが是枝裕和の監督作品であるということを、忘れていたようだ。辛辣で生々しいテーマを独特のドキュメンタリー的手法で描き出してきた彼の作品が、そのような“癒し系”映画であるはずはなかった。
確かに、ファンタジックで心温まる部分もあるにはある。ただし、そういった部分は、淫靡で禍々しい物語の深淵によって覆い尽くされる。
恐らく、この映画の主演は日本の女優が表現するには、生々し過ぎて難しかったと思う。
そこに韓国人女優のペ・ドゥナを配したことで、彼女独特の愛らしさと、併せ持つつかみ所の無い空虚感が、まさに“空気人形”そのものであり、素晴らしかった。
これは女優としての優劣がどうということではなく、キャラクターに対しての国や文化を越えた「適正」の問題だったと思う。
そういう部分を見抜いて、奇跡的なキャスティングをみせた監督の力量は流石だ。
この映画における「救い」は、なんだったのだろうか。
“空気人形”が得た束の間の「生」か。誰しもが空虚を孕み、微かな部分でそれぞれが繋がっているという現実か。
穏やかな空気感の中で描かれる“実態”は、どこまでも禍々しくて遠慮がない。
正直、「好き」と断言できる作品ではない。
でも、この映画の世界観は、紛れもなく新しく、尚かつ世界の「本質」を捉えている。
「存在」すべき映画であることは、間違いない。