89.911のときの事は今でもはっきり覚えています。
仕事が終わり家に帰ったのが22時頃、でテレビをつけたらちょうどニュースステーションをやってて画面には煙をふいてる世界貿易センターが映ってるわけです。
あれ何事だろう?と着替えながら観てて他のニュースを見ようとチャンネルを替えたら、まさに旅客機がビルに突っ込んで爆発する瞬間なんですよ。
「は???」ですよ。
映画じゃなくてニュースの映像です。しかもリアルタイムです。
本当に何が起きてるのかわからなくて、もうその夜は眠らずにずっとテレビを観ていました。
あの日の事は一生忘れないと思います。
さて、この映画、その911の際に、ハイジャックされながらも唯一目標に到達せず墜落したユナイテッド93便を描いたノンフィクション映画です。
リアリティを出すために、出演者は無名の俳優ばかり、それどころか管制官などの一部は当日現場にいたまさに当事者が本人役を演じるという、本当にノンフイクション映画なのです。
よく考えてみれば、この映画はよくテレビで放送されている「あの事件の真相」的再現ドラマをより大規模に撮っただけのものにすぎないんですが、何しろ元の事件が下手な映画よりよほどすさまじい代物だし、何よりも真摯に映画化されているため、その緊迫感はハンパなものではありません。
映画の間、ずーっと眉間に皺を寄せて映像を見続けなくてはならない、こんなの娯楽じゃありません。
なのに目が離せないのです。
しかも何しろ実話ですから、何が起きるかを僕らは知ってるわけです。ユナイテッド93便は最後は落ちるのです。生存者はいないのです。
そのどうやっても避けられないラストに向けて繰り広げられる機内ドラマ…これはきついですよ、ほんときつい。
しかもきついのに最後まで見続けちゃうんですよね…地獄です。
このサイトには「ネタバレの有無」をチェックする欄がありますが、そもそもこの映画にはそれも不要なのです。
この映画の内容についてはみんなネタバレしてるからです。
93便には早稲田大の日本人学生が乗ってた事でも知られていますが、これも映画中ちゃんとキャスティングされててこの人だってわかるんですよね…つらいつらい。(マサト・カモさんという役者だそうです)
さて、今回あらためてこの映画を観て気づいたのですが、これ2017年の今見ると、実に極めてシンゴジラに近いのです。特に前半から中半部。
事件を受けてノーラッドや各空港の管制塔でいろいろな人があたふたするのですが、何しろその瞬間にアメリカの空を飛んでる航空機は4000機以上いるのに、そのどれがハイジャックされてるのかどうなってるのか全くわからないわけです。
情報は錯そうし、何をどう対処していいかまったくわからないままどんどん事件が起きるんですよ。
時間があればなんとかなるんでしょうが、ハイジャックされてから突っ込むまでわずか30分や1時間、混乱してるだけでほとんどなにもできてません。
そして例えば「軍用機がハイジャックされた旅客機を見つけたとき撃ち落としてよいか」「撃ち落とすしかない」「でも誰がその命令をどんな権限で出すんだよ」的な会話が行われるのはまさにシンゴジラの会議室のそれ。
しかし、こちらでは、あまりに時間がなく情報が錯綜し連携もうまく取れずただただ混乱の中で、対応できないままハイジャックされた旅客機が今度はペンタゴンに突っ込み…戦闘機も足りないので「非武装のF16しかないなら体当たりさせてでも止めろ」なんて話になってしまうわけです。
実際のところユナイテッド93便がなぜ墜落したのかについては諸説あり、一説では軍に撃ち落とされたという説もあったりでこの映画についてそのあたりに疑問の声を上げる方もいますが(特にYAHOO知恵袋はひどい)、それはこの映画の価値においては実はどうでもいいところなのです。離陸した時点でこの飛行機には落ちる以外の選択肢は残ってなかったのですから、そこはこの映画としてはどうでもいいことなのです。
あのときの混乱を関係者に真摯に取材して真正面から(一部当事者を出演させてまで)撮った真実の力、この映画の力はそこにあります。
そしてここで示される事実の前に我々は言葉をなくす事しかできないのです。
事実は小説よりも奇なり。
この映画は観ていて本当につらい映画ですし本質的にはテレビの再現ドラマの延長にすぎないのですが、映画の中で語られる真実の前にはどうしても高い評価を与えないわけにはいきません。