2.矢吹丈のストレートが力石徹の頬にめり込む。力石徹のアッパーが矢吹丈の身体を宙に持ち上げる。
拳がゆっくりと顔にめり込む、震える表情筋、乱れる毛髪、吹き出る体液……。
あの宿命の好敵手との決着と悲劇を、映像として具現化出来た様を観た時点で、この映画の存在価値は揺るがないと思った。
原作が長年語り継がれてきた“伝説”である以上、やはり評価における「比較」は避けられない。
この映画は、ある部分では原作を越え、ある部分では大いに物足りない作品だと思う。
まず前述の通り“対戦シーン”は、申し分ない。メインキャストの二人はしっかりと映像に映える身体づくりをし、それをCGクリエイター出身の監督が文字通り「縦横無尽」のビジュアルで切り撮っている。
山下智久の“丈”は、猛々しさは物足りなかったが、重圧をはね除けるための彼なりの努力と意地は見られた。
香川照之の“丹下”は、原作のキャラクターそのもののビジュアルと存在感を、流石の演技力とボクシングへの造詣の深さをもってして見せてくれた。
が、この映画におけるすべての要素の中で最も価値が高かったのは、伊勢谷友介の“力石”をおいて他に無い。
その体躯、眼差し、立ち振る舞い、存在感、そこに居たのはまさしく「力石徹」だった。
役者のパフォーマンスと、監督の創造性よって映し出されたビジュアルそのものが確固たるエンターテイメントであり、そこには「人気漫画を映像化する」ことの意義が確実に表されていたと思う。
一方で、圧倒的に欠けていたのは、対戦シーン以外の「情感」だった。
どうしても映画化における尺の制約があるので、ストーリーが端折られてしまうことは仕方が無い。
ただ端折られているはずの各シーンのテンポが悪く、展開が稚拙だったため、本来そこから伝わってくるべきキャラクターたちの感情の描き方が希薄に思えた。
丈と丹下との絆だったり、丈自身の心情そのものが薄っぺらに感じてしまう部分があったことは、ドラマとしては致命的だったと思う。
そういう意味では、ドラマ性の部分においても、「力石徹」に食われてしまっている印象も受ける。
トータル的には、伝説的な人気漫画に真正面から挑戦し、しっかりと映画化した作品だと思うし、面白い映画であることは間違いない。
ただし、「力石徹」を登場させられない以上、続編には挑むべきではないとは思う。