1.恋焦がれたはずの女なのに妻にした途端に男にとって女ではなくなる。なんとなくわかるような気もするのだが、この映画の主人公はかなり露骨。いい女とそれなりの地位と金を手に入れて、もうそこで安泰、あとは惰性の人生を送るだけ、そんな生きる屍のような男を永島敏行が好演。この男の全てをさらけ出させる「心の声」という神代演出との相性もバッチリ。妻役桃井かおりもいい。噛む女は余貴美子。噛むたびに場内爆笑。お話は正体不明の余の存在によってホラーの様相を帯びるはずなんだけど、この噛む行為によってそれを回避する。一端ホラーへと流れたほうが結末に意外性があるだろうし一般受けするはずなのに神代はストーリーとか観客を騙すとかにはあまり興味がないらしく、ひたすら古臭いストーリーをなぞってゆく演者たちの動きを捉えてゆく。ちなみに主人公が学生時代に撮ったとされる自主映画はゴダール『気狂いピエロ』のパクリだ。主人公曰く好きな映画の寄せ集めなのだそう。映画が大好きな頃があって、女を綺麗に撮っていた頃があって、そして今は大好きだったはずの映画を金にする制作会社の経営者という主人公の生い立ちをさらっと見せているのもうまい。