2.暗黒映画的トーンで拳銃発砲から闇夜の追跡劇~輪転機までを
畳み掛けるように見せるダイナミックなオープニング。
そこにかかる急き立てるような伴奏は後に東宝映画『空の大怪獣ラドン』の
空中戦の場面でアレンジされることになる馴染み深い旋律だ。
これがドラマに一気に引き込む。
この映画は監督谷口千吉、役者三船敏郎と並んで、
作曲家・伊福部昭氏の映画音楽デビュー作でもある。
中盤の和やかなスキー場面の音楽をめぐって谷口、伊福部氏が対立した逸話は有名だが、
伊福部氏の信念通り採用された管楽器ソロによる寂しげで哀切な音楽は
背景の北アルプスの厳粛さをより際立たせ、不思議と強い印象を残す。
その安易な「調和」からのずらし方が非凡だ。
二者を仲裁したという黒澤明監督は後に『野良犬』などで対位的なBGMの用法によって
相乗的な効果をあげていくが、このスキー場面の創作事情は
そうした技法を生み出したきっかけでもあっただろう。
最後のレコード曲の入り方もいい。
小屋を振り返る志村喬の穏やかな笑顔と、雪をまといつつ見送る若山セツ子の
泣き笑い顔が素敵だ。