1.ニュース映画に具体的に登場する中国戦線、空を渡る軍の複葉機、農地を横切り演習する兵士たちと銃撃音など、日中戦争の泥沼化の中で成瀬作品にも戦時色が濃厚に現れてきている。
それでも、玩具のヒコーキが舞う空のショットや山地を遠望するのどかな田園のロケーションが充実し、映画は瑞々しい。
農村の一本道、その脇に並ぶ木立の風情、縁側から土間まで仕切りのない居間のセットそれぞれが不思議に郷愁をそそる。
ニュース映画をめぐって花井蘭子と馬野都留子がそれぞれやさしい嘘をつく。そのため
彼女らは言葉少なく、ぎこちない。そんな嫁・姑・義弟三人の朴訥な会話がいじらしい。
花井蘭子が腰を落として小高たかしと向き合う。そこに挟まれる、流れる雲と小川のせせらぎのショット。その清らかな叙情がこころを打つ。