30.「私たちだけが特別なのではない」
映画のラスト、夏八木勲演じる主人公の祖父が秘めた真実を語り終えた後にそう付け加える。
特攻の美化だ、右傾化だなんだと、原作者の人間性も手伝って賛否の激しい作品であるが、結局この物語が最も伝えてくることは、その夏八木勲の台詞に込められていると思う。
軍人も、民間人も含めて、激動の時代を生きたこの国の総ての人たちが、悲しみも、怒りもひっくるめた「物語」を秘めて、その後の時代を何事もなかったように、耐え、忍んで生きてきたという事実。
この映画で綴られる物語はもちろんフィクションであるが、あの時代を生き、命を継いだ人たちがいたことは紛れもない事実であり、そのそれぞれの物語に対して否定も肯定もないと思う。
「戦争」においては、正義も不義もないことと同様に、それに関わった人間の行為においても、善悪の判別をつけることなど出来ない。
この物語において、生存者の“証言”によって異なる人物像が伝えられるくだりは、そのことをよく表している。
「戦争」は否定されるべきものだと思う。
しかし、ただただ一方的に偏った意見を聞き入れ、そのまま否定することも、安直で、それもまた危険なことだと思う。
あの時代を生き抜き、命を継いでくれた人たちそれぞれが語る言葉の意味を、今の時代の僕たちは今一度知り、考えていかなければならないのだと思う。
原作の時点で賛否の激しい作品ではあったが、個人的にはそれほど偏った思想を感じることはなく、むしろ生存者の証言という要素を軸にした中立的な物語だと思った。また戦争という悲しみを孕んだ物語ではあるが、構成として娯楽性の高い作品だとも思った。
「証言」を軸にした物語構成は、人気バラエティ番組「探偵ナイトスクープ」を手がけた放送作家らしい作品だとも思う。
山崎貴監督は、彼自身の最大の武器であるVFXを存分に活かして、このベストセラー作品の映画化を成功させている。
主題ともいえる“零戦”が飛び交う交戦シーンの迫力とクオリティーの高さは、間違いなく国内最高レベルであり、この作品に相応しい映像としての説得力を備えられていた。
それは、凡庸なドラマパートの演出力を補って余りある総合的な演出効果だったと思う。
キャストにおいては、“証言者”である老人たちを演じたベテラン俳優陣が皆さすがの味わい深い演技を見せてくれる。
ただここはやはり、主演俳優である岡田准一の熱演を特筆したい。
人々の記憶の中にのみ残るある意味人物像が定まらないキャラクターを、熱く、真摯に演じきって見せたと思う。
この俳優には、所属事務所の枠を越えて、今後もっと幅広い役柄を演じていってほしいと思う。
ついに特攻に赴く時、エンジンの不調を察知した主人公は一寸安堵のような表情を浮かべる。
やはり彼は、どんな心情であっても、どんなに無様であったとしても、最後まで生き残る道を模索していたのだと思う。
戦後70年。実際に、生きて、残った命の価値と、彼らが継いでくれた命の意味を、改めてよく考えていきたい。