1.浜辺を歩く綾野剛と池脇千鶴。それを手持ちでフォローするカメラの揺れが
二人の心の昂ぶりを静かに、生々しく伝えてくるようで、胸をざわつかせる。
後景で、池脇が意を決して海に入るその波打ち際は立派な「動線」ではないのか。
時に彼らと距離を置き、時に不器用な二人に寄り添うカメラの距離感が程よく、
人物間の心情の交流が画面から滲み出て来る感がある。
綾野、池脇、そして菅田将暉の三人が食堂で談笑するスリーショットの束の間の幸福感。
綾野のベランダに座りこんでの、綾野・菅田のやり取りに滲むエモーション。
これを「座っているだけ」だから動きがないと解する者にとっては、小津作品などは
さぞ「退屈」に違いない。
俳優らの芝居のみならず、カメラと対象との距離、構図、配光が見事に
融合している。
薄暗い綾野のアパートの室内に入り込む屋外からのネオン光の点滅。
そのギリギリの光加減の中に身体を重ね合う二人が浮かび上がる様は単に艶かしい
というだけではない、深い情感が漲っている。
どこが「暗いだけ」なのか。
ラストの浜辺の眩い朝焼けに浮かび上がる二人の表情の美しさ。
これこそ言葉に代え難い。