29.日本映画史上に燦然と輝く名作中の名作を遂に鑑賞することができた。
未見の日本映画としては、私にとっての“最後の大物”であった。
ただ、観る前から嫌な予感があった。
原作、壺井栄による小説を読んだことがあるし、子供を題材にした小豆島の物語というのは分かっていたので、自分の好みに合わない題材であることが明白だったからだ。
だからこそ、ここまでの名声を得た作品を今まで観ていなかったのだろう。
2時間半に渡る長尺の作品で、最初から最後まで実に苦痛であった。
何と言うか、感覚的に合わない感じ。
高峰秀子の演技は素晴らしいし、小さな島におけるほのぼのとした古き良き時代の雰囲気が良く出ているし、映画の出来としては素晴らしいことは間違いないのだが、それが頭では分かっていても、感覚的にどうも不協和音が心の中にざわざわと鳴り響いていた。
そういった状態で2時間半を送ったのだから、これははっきり言ってしまって苦痛以外の何物でもなかった。
これだけ高い評価を得ている名作に、批判的な感想を書くのは勇気が要るが、正直に書いてみた。
この作品を愛している方々には申し訳ない気持ちである。
理由を長々書く気は到底湧いてこない。
ただ一つ言えば、私は“異端の人間”を愛する性向があって、こういった正統派の人情劇は根本的に相性が悪いからだ。
戦争による犠牲を悲しむ気持ち、教え子に対する真っ直ぐな気持ち。
これらは人間にとって欠くことのできない大切な感情である。
だけど、それをひたすら真っ直ぐに2時間半描かれても、私には退屈でしかない。
人間には色んなタイプの者がいるだろうし、変質的な人間もいる。
だけど、本作の世界にはそういった人間たちは封印されて、どこかに追いやられてしまっているのだ。
綺麗すぎる世界。
これが、私にとってこの作品に退屈感をおぼえた最たる理由である。