2.《ネタバレ》 溝口健二の、現存する数少ないサイレント作品の一つ。
原作は泉鏡花。
主演は“最後の大女優”山田五十鈴。
そして舞台は、私の大好きな場所の一つでもある「神田明神」である。
これだけでも満足間違いナシの組み合わせ。
しかもラストの主人公ふたりの再会シーンは、『山椒大夫』の基礎となったと言われているだけに、なお更期待も高まった。
私がレンタルしてきたビデオテープは、活弁付きのもので、恥ずかしながら活弁付き映画を観るのは初めての経験。
再生を始めて、いきなり気張った女性の声と共に映像が流れ始め、かなりの違和感をおぼえる。
しかしそれも数分後には何ら気にならなくなり、むしろ分かりづらい活弁ナシのサイレントよりも心地よく感じた。
本作は、傑作『残菊物語』とも共通する、「女性が無償の愛を男に捧げる」というテーマを扱ったもの。
その女性役を山田五十鈴が演じるのだが、その鬼気迫る演技に脱帽。
その迫真の演技を見せた山田五十鈴も勿論すごいが、それを引き出した溝口の手腕はさすがの一言。
それと70年前の神田明神を見れたのも良かった。
前述した通り、大好きな場所なので何度となく訪れたことがあるのだが、本作で見た神田明神は全くそれとは異なっていた。
しかしそれよりも、当時の万世橋の辺りから神田明神が見れたという事実の方が、私にとって新鮮だった。
しかも万世橋の辺りに駅があったとは。
東京を舞台にする古き映画を観ると、こういう発見があるので楽しい。
最終的に主人公の女性は気を違えてしまう。
気を違えた理由は、自分を犠牲にしてまで守ってきた男性が遠い処に行ってしまったからというもの。
理由としては判らなくもないが、気を違えるという説得感には多少欠けるような気がした。
しかしながら、その男性が気を違えた女性と再会を果たす本作のラストシーンは、山田五十鈴が鬼気迫る演技を見せる名シーンであった。
本作が名作と謳われる理由は、このラストシーンに集約されているのではないだろうか。
“再会のラストシーン”
これを溝口に描かれたら、観ているこっちは従順にも圧倒されるより他はなし。
やはり溝口健二の映画は素晴らしかった。