3.《ネタバレ》 前篇は、かたぐるしい公の場での出来事が中心であったが、後篇はうって代わって人情劇に。
これが功を奏したのだ。
比較的、分かり易いセリフが増えたせいか、物語に入っていくことができた。
特に討ち入り後の切腹前のシーンは素晴らしかった。
一同は切腹を前にして落ち込むどころか宴会を始める。
死を前にしていくら覚悟を決めたお侍とはいえ、心中穏やかではないはず。
それとも、あだ討ちをしてあとは切腹という制裁を待つだけだから、立派なお侍として気は晴れやかなのか?
どちらかは分からないが、とにかくこの宴会シーンの表面的な騒がしさとその裏に潜む哀しさの対比がとても良い。
死を覚悟した男達の、鬼気迫る宴会シーン。
これは見応えアリの必見シーンだ。
大石内蔵助を演じた河原崎長十郎と、富森助右衛門を演じた中村翫右衛門の二人。
これが何とも素晴らしかった。
『人情紙風船』(山中貞雄)でも共演したこの二人。
本作でも、あの時と負けず劣らずの素晴らしい演技。
特に河原崎長十郎の理屈くさいセリフの数々が、妙に説得力を発揮していて、十二分に引き込まれた。
ところで、本作は最近いっせい発売された溝口健二のDVDをレンタルして観たもの。
それらのDVDには、付録として新藤兼人のインタビューが収録されている。
新藤兼人は本作『元禄忠臣蔵』で“建築監督”を担当していたせいか、他作品に比べ、本作へのインタビューの受け応えはかなりの熱の入れよう。
そして、その話の内容も非常に興味ひかれるものであった。
本編もそうだが、この新藤兼人のインタビューも必見である。
特に驚いたのは、本作の予算。
なんと、当時の映画5本分の予算が本作の江戸城松の廊下のみに使われたというのだから驚き。
国家予算から出ていたとのこと。
これは膨大な数字だが、本作であのセットを見れば間違いなく納得するはず。
はっきりいってズッコケます。
あれを映画のためだけに作ったとは・・・
いくら国家予算とはいえ、溝口健二やりすぎです。