2.戦意高揚を目論む「撮らせる側」に対する「撮らされる側」の精一杯の抵抗と反骨が画面に滲む。
巧妙なレトリックで多義性を担保した字幕によって検閲を欺こうするも、やはり画面と被写体は作り手の思い入れや真情を如実に浮かび上がらせてしまう。
家を焼かれ、項垂れる中国農民。道端に残され、臥していく1頭の病馬。疲労し切った兵卒の眼差し。夜の野営地に寂しく響く驢馬の鳴き声。
明らかにやらせとわかる最前線の中隊本部の描写がふるっている。約10分間のフルショット・ロングテイク。同時録音らしい生々しさを醸しながら、どこか間の抜けた滑稽さをも纏う。
亀井監督の本作での演出意図に関する考察は、佐藤忠男の「日本映画の巨匠たちⅡ」などに詳しいが、付け加えるとするなら本作における行軍の構図取りもまた確信的なものだろう。
南京から漢口へと西進する日本軍がアニメーションの矢印で地図の左手方向に伸びるように示されるが、実際の行軍の画面は逆に右手方向へ向かうようにフレーミングされたものが多い。
田坂具隆監督の『土と兵隊』などが、一貫して左手方向への進軍となるよう画面作りしているのとは対照的だ。
ショットによっては、右方向へ行軍していた列が、(曲がり道のため)画面手前で左手に反転するかに見えるものもある。
これもまた日本軍の大陸での「左往右往」を文字通りに皮肉ったものと云えなくもない。
作中には、「(家に)帰りたい」と語る中国人捕虜のショットと字幕も登場するが、これが日本軍兵士の本心を暗に代弁させたものとするなら、この行軍のショットが示す方向性もまた、兵士たちの内なる思いを慮ったゆえのものだろう。