1.《ネタバレ》 イスラエル映画のリメイクということなのですが、オリジナルはDVD化すらされておらず日本国内で鑑賞することはできないようです。モサドが民族の敵を抹殺に向かうという『ミュンヘン』と似たような話であり、硬派な雰囲気も『ミュンヘン』譲り。かつて、『恋におちたシェークスピア』でスピルバーグとオスカーを競ったジョン・マッデンが監督を担当しているのですが、本作ではオスカー監督らしい卓越した手腕を披露しています。また、『X-MEN/ファースト・ジェネレーション』でX-MENを007にしてみせたマシュー・ヴォーンが脚本に参加した成果か、スパイ映画としてのディティールも整っています。一方で、ユダヤ人の被害者ナショナリズムや、元ナチスは殺されて当然の人間のクズというステレオタイプな描写は相変わらずで、こちらにはやや辟易とさせられるのですが、それでも映画としては面白く作られていて、最後まで楽しむことができました。。。
本作の最大の見どころは、若年スパイチームと老練の元ナチスとの心理戦。スパイチームは序盤こそ首尾よく作戦を遂行し、ターゲットである元ナチスの拘束に成功するものの、あるトラブルがきっかけで準備されていたシナリオが破綻すると、経験不足ゆえの柔軟性のなさと若さゆえの弱さを一気に露呈します。そして、彼らに監禁された元ナチスは、この隙を突いてきます。スパイチームは20代の若者3人、対する元ナチスは初老の男性が1人で、しかも手足を縛られ目隠しをされているという圧倒的に不利な状態。しかし彼は悪魔のような冷静さと鋭い洞察力によってスパイチームを精神的に疲弊させ、優劣を逆転させてしまうのです。とにかくこのやりとりにスリルがあって、派手なアクションがなくともスパイ映画は成立するということを本作は見事に証明しています。。。
全米公開時には高く評価された本作も、その地味な作風が祟ってか日本ではDVDスルー。おまけにジャンルを勘違いさせるような邦題を付けられるという不遇な扱いを受けていますが、見逃すには惜しい良作です。