49.《ネタバレ》 話は面白く映像は美しく役者は魅力的です。
主役の2人が登場人物達の波のように幾重にも重なった利己的な思惑に翻弄されながら話は進んでいきますが、お互いの愛を確認した所から利他的な行動を取っていた2人も徐々に自分達の幸せの為に周りが見えなくなりお互いを求め合うようになる話は、作中の時代と制作された時代の両方を考慮しているようで村社会から個人主義への変貌を表しているようにも見れます。
話自体も非常に良く出来ていますしストーリーの展開も俊逸です。
近松門左衛門の原作では2人はかなり強引な展開により助かってしまいますが脚色されている本作の流れから言えば、あのラストがベストだと思います。
茂兵衛とおさんが川を渡るシーンではフレームの右手前に朽木を配してそれを舐めるように2人が右奥から左手前に抜けていきます。
構図の良さは勿論ですが川を渡る2人とシルエットになっている山とそれより幾分明るい空の実像と、カメラアングルをローポジションにしている為にそれらをはっきりと映している水面とで上下でほぼシンメトリーとなっている画にわざとバランスを崩すように上記した朽木が配置されているカットは美し過ぎます。
2人が川を渡るだけでこんなにも美しい映像を堪能させて貰えるとは贅沢過ぎる作品です。
また、以三と助右衛門が障子と柱の後ろや前を見え隠れしながら行ったり来たりして密談している姿は、以三の腹黒さをまだ掴みきれていない助右衛門の不安な心境を表す十分な効果となっています。
そしてこの映像や構図の美しさを支えているのが的確なバランスで作られているライティングです。
ほぼ全てのシーンで違和感なく仕上げられている映像はこの照明に起因している所も大きいと思います。
南田さんの快活さと香川さんの品から色に変わっていく女性の演技はとても魅力的でした。
特に香川さんに関しては全編通して美しいの一言です。
長谷川さんの事はなんとなくは知っていましたが作品を見るのは初めてだと思います。
主役を貼れる人だとは物凄く良く分かりましたが職人さんには見えませんでした。
存在感が有り過ぎるのと演技としての所作が堂に入り過ぎている感じがしましたが、演出を少しだけ歌舞伎風にしているのでギリギリ作品には馴染めていたと思います。
ラストの馬上の2人の表情は見ている女中に台詞として説明させるのではなく、彼等の尺をもう少し長目にして表情を丁寧に撮る事によって2人の演技で語って欲しかったです。