この世界の片隅に(2016)のシネマレビュー、評価、クチコミ、感想です。2ページ目

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この世界の片隅に(2016)

[コノセカイノカタスミニ]
In This Corner of the World
2016年上映時間:129分
平均点:8.20 / 10(Review 151人) (点数分布表示)
公開開始日(2016-11-12)
公開終了日(2017-09-15)
ドラマコメディ戦争ものアニメ漫画の映画化
新規登録(2016-10-20)【ユーカラ】さん
タイトル情報更新(2024-01-27)【Cinecdocke】さん
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監督片渕須直
演出新谷真弓(広島弁監修)
のん北條すず
細谷佳正北條周作
小野大輔水原哲
潘めぐみ浦野すみ
牛山茂北條円太郎
新谷真弓北條サン
小山剛志浦野十郎
京田尚子森田イト
佐々木望小林の伯父
塩田朋子小林の伯母
三宅健太ばけもん
喜安浩平
原作こうの史代「この世界の片隅に」(双葉社刊)(双葉社 週刊漫画アクション 2007年‐2009年連載)
脚本片渕須直
音楽コトリンゴ
佐々木史朗〔音楽・アニメ製作〕(音楽プロデューサー)
作詞コトリンゴ「たんぽぽ」
こうの史代「みぎてのうた」
片渕須直「みぎてのうた」
サトウ・ハチロー「悲しくてやりきれない」
作曲コトリンゴ「みぎてのうた」/「たんぽぽ」
加藤和彦「悲しくてやりきれない」
飯田信夫「隣組」
編曲コトリンゴ「みぎてのうた」/「たんぽぽ」「悲しくてやりきれない」/「隣組」
主題歌コトリンゴ「みぎてのうた」/「たんぽぽ」/「悲しくてやりきれない」
挿入曲コトリンゴ「隣組」
製作朝日新聞社(「この世界の片隅に」製作委員会)
東京テアトル(「この世界の片隅に」製作委員会)
東北新社(「この世界の片隅に」製作委員会)
バンダイビジュアル(「この世界の片隅に」製作委員会)
双葉社(「この世界の片隅に」製作委員会)
MAPPA(「この世界の片隅に」製作委員会)
Cygames(「この世界の片隅に」製作委員会)
企画丸山正雄
プロデューサー真木太郎
制作MAPPA(アニメーション制作)
配給東京テアトル
作画松原秀典(キャラクターデザイン・作画監督)
美術こうの史代(劇中画)
男鹿和雄(背景)
武重洋二(背景)
録音柴崎憲治(音響効果)
片渕須直(音響監督)
東北新社(音響制作)
その他本郷みつる(クラウドファンディングで支援してくださった皆様)
小林靖子(クラウドファンディングで支援してくださった皆様)
あらすじ
広島に暮らす18歳のすずに、ある日突然縁談話が持ち上がり、彼女は戸惑いながらも軍港の町、呉に嫁ぐ。折しも太平洋戦争は激化、呉の町への空襲も日に日に激しくなる中、周囲の人々に温かく支えられながら、彼女は気丈に生きる。しかし、ついにその日はやって来た…。こうの史代の漫画をアニメーション化。すずの声を女優のんが熱演。
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12
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17.《ネタバレ》 本作の原作漫画を遥かに凌駕する映画的演出で特記すべきは、まずは、呉の嫁ぎ先のロケーションです。山のふもと。斜面の畑。石垣。晴美と呉港を見渡して会話するシーン。

タンポポを飛ばすシーンで、周作と並んで石垣の上に座る場面など、高低と奥行きの描き方が圧倒的。そして呉で初めての大規模な空襲のシーン。「こんな時に絵具があれば」というモノローグ。青空に連続して描かれる破裂する爆弾。なんて美しい表現でしょう。また、時限爆弾の後の、黒地に線香花火のような落書き風の処理。こういうの、実写でやってもいいよなぁ、と思いながら見ました。


さて、もう一つ、大雑把な云い方ですが、映画を見た際に誰もが感じるであろう、隠喩の豊かさについても、原作で既に描かれているか検証したい、と強く思いました。

そこで、象徴について追記。やっぱり、本作において最も重要な色彩は白色なんだろうな、とつらつら思いました。思いつくまま白い色をあげてみます。
例えば、タンポポや白鷺の表すもの。金床雲とキノコ雲。ばけ物と鬼(ワニを嫁にもらうお兄さん)。或いは、ネーミングによる多重性、すずとりん、すずの妹の「すみ」(片隅のすみではないか)、「ふたば」という料理屋。遊郭「二葉館」。
これらは殆ど、原作通りですが、映画における白鷺のメタファーは原作をかなり超えるものです。
白いタンポポ。タンポポの綿毛。白鷺。白鷺の羽。波間の白うさぎ。白粉、白粉をふった、すずの顔。雲。アイスクリーム。包帯。砂。糖。白米。


ところで、これは映画的な話ではないので恐縮なのですが、御多分に漏れず、私も映画を見た後、気になって原作を読んだクチです。
何を一番確認したかったのかというと、実は冒頭の扱いでした。この映画を見た際に最も驚いたのは、冒頭、アバンタイトルで、幼いすずが船に乗って一人広島市内へお遣いに出ますが、その際にBGMとして讃美歌「神の御子は今宵しも」が流れ、広島市では、クリスマスの装いが描かれるのです。ちょっとこれには驚きました。

タイトルバックの「悲しくてやりきれない」以上に、このクリスマスソングに驚いたのですが、原作ではこのシーンは昭和9年1月の出来事として、描かれており、明かな片渕須直による改変なのです。

原作と映画との相違では、この部分は大して重要じゃないかも知れません。こゝよりも、夫・周作の過去の扱い、遊郭の女・白木リンの扱いの方が大きいかも知れません。
ただ、私にとっては、本作がクリスマスの映画として始まる、というのは決定的に重要な細部です。
ゑぎさん [映画館(邦画)] 9点(2017-03-28 05:40:00)(良:1票)
16.《ネタバレ》 呉市でお店をやっていた私の祖母がまだ健在だった頃、戦中/戦後の生活について聞いたことがあった。祖母は「戦争でお店も全部焼けちゃって、本当に貧しくて何もなかったけど、それでもとにかく毎日楽しかったねぇ。」と答えてくれたのだが、私はこの祖母の言葉を聞いた際、不思議な感覚を持った。自分が勝手に抱いていた戦中/戦後のイメージと「楽しい」という言葉が結びつかなかったのだ。それがこの作品を見て、なんとなくだが祖母の言葉の意味が分かったような気がした。

毎年8月になるとテレビで放送される戦争特番や戦争映画。勿論真実ではあるのだろうが、やはり一つの角度から描かれた「側面」であり、「ダイジェスト」なのだろう。「昔の人は大変だったんだなあ」戦争特番を見るたびにそんな感想を抱き、どこか昔の人は今の自分達とは違うのだという意識を持っていた。しかし考えてみればほんの数十年で人間の業や生活の本質が変わるはずもない。人間の1日とは昔も今も、朝起きて、ご飯を食べ、排泄をし、それぞれが仕事をし、家に帰ってきて夕ご飯を食べ、お風呂に入って翌日の為に寝る。要はこれの繰り返しであり、これの繰り返しこそが人生であろう。この映画が衝撃的であるのは、そういった人間の日々の生活=日常にフォーカスしているところにあり、戦争という「非日常」にフォーカスしてきた今までの戦争ものとは、ほとんど真逆のアプローチであると言える。

2016年5月、オバマ氏の現職大統領として初の広島訪問。あの日行われたスピーチがより心を打つものであったのは、あの8月の日の朝も、いつもと変わらない、そして私たちと何も変わらない、普通の日常があったのだ。そしてそれを一瞬で壊してしまうのが戦争なのだという事に触れたからではなかったか。

映画が終わった際、「すずさんが生きていて、良かった…」「お義姉さんが生きていて良かった…」「周作さんが生きていて…」と思った。
何も無い、普通の1日を過ごせるのがどんなに幸せな事かを実感できる映画である。
rain on meさん [映画館(邦画)] 9点(2017-03-24 10:54:11)(良:2票)
15.《ネタバレ》 ◇小さなころからのすずと家族、市井の日常を丹念に描くことで、観客はすずの親戚にでもなったような親近感を抱く。
◇一緒に泣き笑い物語は進むが、その日が近づいてるのを、すず達は知らない。観客は知っている。
◇あっけなく奪われる日常。それでも、人々は、生きるためにたくましく日常を取り返す。
◇この映画に出会えたこと感謝します。
ミルアシさん [映画館(邦画)] 9点(2017-03-05 10:28:25)
14.《ネタバレ》 淡い色彩、素朴な人物画、正確に緻密に描き込まれた戦前の広島の街並。大変美しいアニメである。柔らかく耳に響く広島弁も心地良かった。
最も美しいのは、すずや周囲の普通の人たち。朝には出勤し、かまどで炊飯し、洗濯をして畑の世話をする。生活のための仕事を当然のようにせっせとこなす普通の営みが、戦時下においてはとても輝かしく尊く感じられる。
細やかにユーモアを交えて描かれる人間関係。スパイを疑われるすず、このご時世であるから緊迫の北條家かと思いきや「憲兵さんは何もわかってないのよ」と皆でネタにして大笑い。つられて笑った。生活感のリアリティは気温まで伝えてくる。冬には手がかじかみ、夏はうだるような暑さ。「今日も暑いわねえ」20年の8月、あの日も暑かった。
この美しい人たちを破壊した戦争という「暴力」を憎まない人間がいるとは思えない。エンドロールが流れる中、席を立てずにただ鎮魂を祈っていたのは私一人では決してないだろう。声高に叫ばないが、強く強く心に反戦を訴える力のある映画だ。

私は声優という職業はプロの領域だと思っているので、役者であってもあまり歓迎しないのだが、本作のヒロインの声を担ったのんはすずに魂を吹き込む見事な演技をした。ぴったりだった。
tottokoさん [映画館(邦画)] 9点(2017-02-09 00:51:55)(良:1票)
13.公開から約3ヶ月遅れで地元の映画館でも上映された。
前半は「昭和嫁入り物語」みたいな感じで気楽に観られるのだが、戦争・原爆を意識せざるをえないため、
どうしても緊張するよね。
矛盾してるけど、笑いながらも悲しいみたいなのがずっと続く感じ。
後半になって戦火が激しくなっても淡々と日常が描かれる。
観て良かったなあと思えるし、延々と反芻できる映画です。
おとばんさん [映画館(邦画)] 9点(2017-02-06 22:42:11)
12.家族みんなで観れる良作です。戦争映画にありがちなバッドエンドでないのがいいです。
死んだ私の曾祖母などの話では、現実的には『火垂るの墓』とか『キャタピーラー』、『はだしのゲン』が近いのでしょうが。
すずさんは右手を失ったとはいえ、家族が比較的みんないい人でほのぼのして、こんなんで戦時中をよく生きていたなと思います。
まあ、戦争映画にありがちなドロドロ感、グロテスクさ、救いようのなさがあまりないのはこの作品の特徴です。
前向きで元気にになれる最近では珍しい作品です。
SHOGOさん [映画館(邦画)] 9点(2017-01-22 15:48:11)
11.すずさんに流れる時間が本当に心地よいし、掛け替えのない登場人物たちの魅力に尽きます。昔の人は本当にあんな暮らしをしていたのだろうなぁと今までにないリアリティを持って思いを馳せてしまいました。人間なんてきっと、全ては振り返れば、の範疇で生きているのかも知れませんね。当事者は今が酷い戦争の只中なんだ、バブルなんだ、不況なんだと気付かずに今をひたすら一所懸命に生きているのでしょう。
一般に言われる「泣ける映画」ではありません。テンポが良過ぎて泣く暇がありませんでした。でも素晴らしい作品ですよ、本当に。鑑賞後、戦艦武蔵のドキュメンタリーが放送されていたので見入ってしまいましたが今までに無い程胸が痛みました。
Kの紅茶さん [映画館(邦画)] 9点(2017-01-15 00:10:49)
10.キネマ旬報で第一位となったらしい。興行成績でいえばあちらのアニメやこちらの怪獣映画の足元にもおよばない(注:2017年1月現在)この映画に。やるね、キネ旬も。
la_spagnaさん [映画館(邦画)] 9点(2017-01-14 12:32:28)(良:1票)
9.《ネタバレ》 原作が好きで、アニメ化されることが分かったときは「また余計なことを」と思ったのですが監督、スタッフの皆様すいませんでした。
久しぶりに好きなアニメ映画ができました。
なによりいかにもな声優声がないのが私としては非常にとっつきやすかった。
のんって名前には違和感はありましたが、すずさんにマッチしてました。
アニメの声を役者があてると非難されがちですがいいじゃないですか。
しかし能年玲奈なのにすず。
いや別にいいんですが。
レトロに見せかけて表現や演出で今まで観たことのないような試みがなされているのも良かった。
今風のアニメとは違うまた別の新しいアニメの形を観せてくれました。
今風のアニメはそれはそれでいいと思うのですがこの映画のような流れがもっとあっていいと思うし、私は観たいです。
CBパークビューさん [映画館(邦画)] 9点(2017-01-14 01:30:06)(良:1票)
8.《ネタバレ》 それは、川を流れる船の「片隅」から見上げた光景から始まる。
雲が流れ続け無限に拡がる青い空。果てしなく続くその姿は最初から最後まで「誰か」を刺激し、「誰か」が描く絵、絵、絵で語り続ける映画だ。

心の中で繰り返される「誰か」の感情と想いは、夥しくため込まれ爆発する時を待つ。

橋の上で放り込まれた先での出会い、夜になったらおやすみ、夢のような一時、スイカが繋ぐ出会い。

紙も板切れもノートも地面も何でもキャンバスにし、水平線を引き描いて描いて描きまくり記録されていく風景、顔、月日、年、思い出。

彼女が描く絵は生き物のように動き出し、白波が海を走れば波は兎になって海原を駆けて行く。

思わずクスクス笑ってしまう微笑ましい光景の数々、いくらドジをやっても笑ってくれた平和な日々、結婚しても後退と接近を繰り返す恋愛が少女を大人の女性に変えていく、愛のある拳骨、思わず申し訳なさそうに目をつぶり笑ってごまかす反応、絶対に笑ってはいけないクソ憲兵との“にらめっこ”戦時下の人々に光をさす闇市、幼い頃の記憶が蘇る再会、紙に溢れる甘いもの、夢や希望。

どんなに世界と人が変わろうが、女たちは“抗う”ことをやめない。
風呂に浸かり、汗を流し、飯を喰らい腹に詰め込み、服を仕立て直し、水の入ったバケツを担ぎ上げ、紙を奪われたら新しい紙を貰い続け、手を握り、引き連れ、腕を振り回し、歩いて、歩いて、歩き続ける。

着物を被り隠す黒髪、誰かに何かを打ち明けたくても言えないものを背負い込むうなじ、白く輝き日に焼けたりもする細腕、脚、口紅をさす唇、おしろいを塗りたくったり引っ張られたりする頬、顔。

料理くらい誰かに教える気分で、楽器でも弾くように楽しく作りたい、二人きりになったらキスくらいしたい。身を寄せ口づけを求めるのは、好きなのかどうか確認するため。両腕を布団にぶつけながら吐き出される複雑な想い。

やがて訪れる地面を曇らせる飛行機の影、戦争の音、警報が鳴る/鳴らないで変わってしまう警戒心。
死が迫り来る状況でも見つめ続けようとする絵描きの性(さが)。爆撃機が鳥の大群のように空を覆いつくし、炸裂する砲撃や爆弾の煙さえ、彼女にとっては格好の題材になってしまうのだろう。

男たちはそんな女たちに覆いかぶさり、抱きしめ守ろうとする。破片や機銃掃射が雨のように降り注ごうとも。頼まれなくたって生きて欲しいから。

終盤まで、空襲で焼かれた遺体といったものは徹底的に描かれない。あえて「見せない」方がかえって想像してしまい恐ろしいのだから。
波間を漂う帽子、“鬼”の石ころ、血まみれの服、ぽっかり空いた穴が誘う“死”、届かぬ声、閃光、振動、木に引っ掛かる飛んできたもの、座り込んだ「あの人」は誰だったのだろう。

暗闇で輝き散っていく白い花火、ひらひら舞っていく繋がった腕、花畑まで駆け込み微笑んで欲しかった“もしも”、もっと描きたかったもの、撫でてやりたかったもの。

布で覆い被してまで見せなかったものを「見せる」のは、戦争の悲惨さを伝えるためではない。どんなに傷つこうとも最後の最期まで抗おうとする人間の姿を「描く」ためだ。

生きる意思を放棄したはずの者が、燃え盛る焔を見た瞬間に無我夢中で叫び、逃げ続けるのを止め、何度もつぶってきた眼を見開き、布団を投げ飛ばし、体を投げ出すように火に飛び込み、倒れても這い上がり、バケツに入れぶちまけられる感情の爆発!!
心の溝を埋め距離を縮める歩みより、手助け、会話、髪を切る決意を語る瞳、「何処までも飛んでいけ」と追いかけ突っ走り、耐え続ける“理由”が無くなった途端に溢れ出る怒り、悔しさ、涙。

その姿は、幼い心にも焼き付いて離れないものとなって蘇る。
片腕が吹き飛びガラス片が幾つも突き刺さろうが手を握り、引き続け歩き続けようとした姿、座り込んでも…いや死してなおも庇うように。
子供も眠っているだけかも知れない、まだ生きているかも知れない、あるいは認めたくないからこそ必死になって群がる蠅を払い続ける。それを受け入れざる負えない流れ出る“死”。

失ったものを求めてさまよって、歩いて、歩き疲れた先でたどり着き、“見つけた”者と“探し続けた”者が地面に転がった飯の塊で結びつく。
女は黙って腕にすがりつく子供に隣を許し、暖かく迎え入れてしまう。

何も無くなったというなら、空で輝き続ける星の海を見つければいい、灯りを灯して暗闇を照らしなおせばいい。
居場所が無ければ探し、見つからないなら見つけ、作ってやればいい。
「なくなった」はずのものが釜を抑えながら飯をこさえ、「いなくなってしまった」ものを描き続ける。それは、こうの史代の想いでもあるのだろう。
すかあふえいすさん [映画館(邦画)] 9点(2017-01-12 00:47:05)(良:4票)
7.《ネタバレ》 どれだけ話題になっていてもすぐに見られない田舎は不利だと思う。
原作を読んだことがあるので概要はわかっていたつもりだったが、始まってみると原作の世界が実際に動いて、カラーで(当然だが)、背景音楽付きで広がっていくのを見て背筋が少し震える気がした。個人的には特に序盤で、戦前の広島の繁華街(中島本町)や広島県産業奨励館を鳥瞰的に捉えた風景が出ただけで泣ける気分になった(その後の出来事を知っているからだが)。
また劇場予告編にも出ていたが、入港する大和が柔らかな緑を背景にして色鮮やかな信号旗をたなびかせ、艦上で多数の人が動いている情景には、無機質な鉄の兵器というよりも、そこにいる多くの人々に目を向けようとする優しさが感じられる。青葉の甲板で洗濯物を干していたのも乗組員の日常風景だったろう。ほか代用食をカラーにすると変にきれいで料理映画のように見え、すみれの花まで入っていたのはちょっと感動的だった。本来は葉を食うものだろうから、食用というより暮らしに彩りを添える工夫ということだろうが。
ちなみにわざわざ書くまでのこともないが爆撃と銃撃は怖かった。

物語に関しては、基本的に原作準拠のようなので特に言うべきこともないが、驚くのはリンさん関係がほとんど省略されていたことである。本筋との接続部分は残っていたようなので完全版を期待したい。また原作を知らずに見る人には、あまり最初から細かいことにこだわらず、まずは感じることを優先して見るようお勧めしたい。
原作になくて映画で加えられたものとして、細かいことだが周作が反乱の鎮圧に赴く際、法務はどこまでも秩序を守るのが仕事、というような台詞があった。これは夫婦関係に関していえば、水原に引け目を感じていた周作の面目を立てる形になっていたのだろうが、同時に周作が社会を維持する立場という意味も出ていたように思われる。その直後に呉市役所の困り事相談の看板が出ていたりもしたが、すずさんのような家庭の生活者とともに、その生活者が暮らす身近な社会を支える人々も加わってこの世界が続いていくという意味に取れば、家庭の生活者としてはちょっと自信のない自分であってもこの映画での居場所を見つけられる気がした。
この映画から何を受け取るかは人それぞれかと思うが、現代に生きるわれわれがこの世界に関する認識を深めるのに役立つよう、原作を含めたこの物語が広く認知されていくことを自分としても願っている。

なお余談として、自分としては原作にない「掃海特務艇第十六号」というのが微妙にユーモラスに感じられた(晴美さんもご存じなかったろう)が、その後の出来事をあらかじめ知っていたのでここで笑っていいのかどうかわからなかった。これはこういう名の知られていない地味な船に乗って、海軍の片隅で身体を張っていた人にも焦点を当てようとしたと解する。
かっぱ堰さん [映画館(邦画)] 9点(2017-01-03 23:43:52)(良:1票)
6.《ネタバレ》 原作未読。本サイトでの高評価が気になり鑑賞したが、なるほどその理由に納得した。

本作はジャンルでいえばいわゆる「戦争もの」に入ると思われるが、主人公は題名が示すとおり一介の無名の女性庶民であり、英雄でもましてや兵士でもない。舞台も戦場ではなく、普通の庶民の生活の場である。したがって本作では、庶民の側からみた戦争、本土に住む大半の市井の人々にとって、あの「戦争」とはいかなる体験だったのかが描かれている。その意味ではあの『火垂るの墓』と軌を一にするものの、こちらは悲愴感は控えめに、むしろユーモアや希望、力強さといったポジティブな感情に訴えかけくる違いがあった。
本作にはいわゆる悪人は登場しないし、残酷描写も控えめである。そのため、中高生などの鑑賞にも適していると思われるが、実際にあの時代に生きていた人々は本作での控えめな描写よりもっと大変で過酷であったことは(大人ならば)容易に想像できるはずだ。

おっとりのんびり屋の少女だった「すず」が18歳になり、戦争の暗雲が立ち込める中、相手もよくわからないまま広島から呉に嫁にゆく。
見も知らない土地の中で懸命に働くすず。早朝水を汲み、火をおこし、炊事をし、掃除、洗濯、裁縫…食糧が不足するなかでも、さまざまな工夫をして食卓を彩ろうとするすず。本作ではこうした何気ない生活や街並みなどが丁寧に描かれている。そのすずの狭い世界にも戦争は「少しづつ」影を落としていく。この「少しづづ」の描写が大変秀逸なため、観客も、すず達と一緒に忍び寄る脅威を追体験できる。
のどかな山野に襲い来る空襲また空襲、鳴り響くサイレンまたサイレン。そして、その空襲は、ついにすずの右手と晴美を奪い、さらに8月6日には….
玉音放送を聞いたあとの、すずが怒りを爆発させ「何も考えん、ぼーっとしたうちのまま死にたかった」と慟哭するシーンは、見る者の心をわしづかみにして離さない。

戦争が(いかなる大義名分があろうとも、たとえそれが正義といわれるものであったとしても)なぜ起こしてはいけないのか。もしわからなくなった人はこの作品を観ればよい。あの時代、何万人、何百万人の「すず」が「晴美」が、浦野家の人々が、北條家の人々が、確かに生きていたこと。そして今を生きる私たちの祖父母や曾祖父母がまさにその人々であったことを、思い出させてくれるだろう。

ただし、本作が投げかけるメッセージは単なる「反戦」などではない。

救いだったはの夫である「周作」の「すず」への変わらぬ愛情が物語のベースにあったこと。
お互いにとってそれは大切な人生の「居場所」だったのだ。

戦争という狂気の時下にあっても、「この世界の片隅に」こうした居場所さえあれば、人はたくましく生きていける。
灯火管制が解除された戦後の町に灯りがともっていく。その光のひとつひとつが愛しく思えた。
田吾作さん [映画館(邦画)] 9点(2016-12-05 09:29:26)(良:1票)
5.《ネタバレ》 のん、のん、のん、一にのん、二にのん、三四がなくて、いやいや全てにおけるのんの声、あの声といい声質といいこの作品のすずさんの声に見事なまでにマッチしている。そんなすずさんが健気で、愛しく思えてしまう程、とにかくこの作品のすずさんが可愛い。この作品、戦争を描いていながらも戦争がどうだとか?けして叫んだりしていない。そんな事、言わなくても映像だけで伝わる事がどれだけ大切か?見せてくれている。すずさんの1つ1つの仕草、行動に人としての在り方、存在価値を見る事が出来る。右手を失いながらもひたむきに生きる姿が感動的です。感動という意味では、戦争に負けた事を知り、まだここに五人残っている。まだ左手も両足もある。と怒るシーンで、この台詞がこの作品の全てを物語っている。何処から見てもこれは、日本人だから描ける作品で日本人だからこそ心に響く作品です。広島へ向かって飛んで行く鷺の姿等は平和の象徴の様なシーンの1つで、すずさんにとっても自分の故郷を感じる事が出来るシーンであり、この作品にはすずさんの人生の象徴を感じる事が出来る場面が沢山、見る事が出来る作品でもあると思いました。
青観さん [映画館(邦画)] 9点(2016-12-01 20:43:27)(良:2票)
4.《ネタバレ》 戦争を題材にしたよくあるアニメーション映画だろう、と軽い気持ちで鑑賞に臨んだことを後悔するほど、心に強い衝撃を受けました。この映画、"戦争"を題材にしながらも人間の狂気は見えません。あくまで物語の中心はその時代の人々の生活、戦争はあくまでそこに存在した一つのできごと。まるで"日常"のように、近くで軍が大砲の演習をして、夕焼け小焼けではなく空襲警報が鳴り響く。悲しいことに、人々は誰もが悲劇が"悲劇"である感覚を失っていた。でもそれが戦争の本当の恐ろしさでもあると思います。アニメならではの見どころも多く、特に防空壕の中で感じる空襲の生々しさなどは、想像をより掻き立てる分、ある意味で実写よりよほど恐怖をそそるかもしれません。草木や花や海の繊細な優しさ、戦艦の雄々しいたくましさ、終戦後に部屋に灯る希望の明り。絵から一貫して伝わってくるのはあの時代を強く生きた、先人たちの"心"です。そして、人生に必要なものは、勇気と想像力とほんの少しのお金。先人たちは生活の中にそれを心得ていた。この映画は日本人の心の歴史そのもの、どうか後世に伝えていきたい。
タケノコさん [映画館(邦画)] 9点(2016-12-01 18:08:22)(良:2票)
3.素晴らしい。傑作。作品についてはもうこれ以上何も語る必要がないが、能年玲奈ことのんについて。声が完璧に合っている。しゃべれない、演技もアドリブもからっきしなんで今後を危うんでいたが、この作品は奇跡的なまでのハマリ役だった。是非これをきっかけに再起して欲しい。
ぴのづかさん [映画館(邦画)] 9点(2016-11-26 17:31:57)
2.《ネタバレ》 キャラクターの描線の淡い色調が背景画とよくマッチして、柔らかなトーンで統一されている。
一時期のスタジオジブリのような極端な細密さではなく、ほどよい加減で省略を採り入れた美術も大らかでよい。
それでいて、道端の草なども当時の植生を細やかに再現しており、道行くエキストラの服装に至るまで妥協がないのが
画面作りに対する仕事ぶりから察知できる。

廃墟となった家の入口付近に重石をされた書置きがある。通りの端で子供ら二人がままごと遊びをしている。
背景に配置されたそんな細部から主人公家族以外の人々のドラマまでが立ち昇ってくる。
風に揺れる松の木の葉、米一粒一粒の白さ、風に舞うタンポポの白い綿毛一つ一つの動きの細やかさが
タイトルと共に主題を浮かび上がらせる。
ユーカラさん [映画館(邦画)] 9点(2016-11-15 20:00:15)
1.《ネタバレ》  東京国際映画祭で鑑賞。

 原作がマンガというフォーマットを最大限に活かした名作だったので、アニメ化には大きな不安を抱いていました。原作は絵の表現がそのまま主人公すずの描く絵と内面の心理描写とに反映され、すずの一人称的世界を構築していたのに対して、アニメは共同作業による三人称世界ですから、原作をそのまま置換する事はできない訳で。後半のある時点からの大きな変化を描く重要な部分を映像で表現するのは無理、その代わりをどうするのか?と。
 結論から言えば、完璧ではないけれど、アニメならではの表現を模索していて、それなりに上手くいっていたように思います。少なくとも同じ作者の『夕凪の街 桜の国』の無惨な映画化に比べれば、原作に過剰な思い入れのあるファンでも納得のゆく作品に仕上がっていました。

 基本は原作に忠実で、原作の絵柄を丁寧に再現し更に細やかにアニメートさせ、エピソードを上手くすくっています。
 精密に描かれた戦中の広島と呉の世界に、声と動きを与えられたすずが生きていて、彼女が巻き起こす笑いが楽しく、それがゆえの後半の痛みも厳しく。
 手の描写にこだわるのは原作からすれば当然と言えるのですが、その当然の事をきちんとできているかどうかが重要なわけで。これはとてもきちんと真面目に作られています。

 リンのエピソードがかなり割愛されてしまっているのはとても残念なのですが、そこを描くとPGー12指定の映画になりそうな気もしないではなく、仕方ないのかな。
 鬼いちゃんと座敷わらしのエピソードはもう少しハッキリと浮かび上がらせて欲しかったですし、ラストの邂逅も淡々とさりげなさ過ぎな気もします。
 ですが、魅力的な存在感を放つすずを通してあの時代を暮らした人々の生が輝き、現在に繋がるこの国の人の営みを実感させてくれて見事です。

 誠実な作りのアニメ映画、これもまた日本のアニメの力を示しています。どうか多くの人に見て貰いたいです。
あにやん‍🌈さん [試写会(邦画)] 9点(2016-11-01 14:47:30)(良:3票)
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【点数情報】

Review人数 151人
平均点数 8.20点
010.66%
100.00%
200.00%
310.66%
442.65%
595.96%
695.96%
72113.91%
82516.56%
93724.50%
104429.14%

【その他点数情報】

No名前平均Review数
1 邦題マッチング評価 9.46点 Review13人
2 ストーリー評価 9.26点 Review19人
3 鑑賞後の後味 9.05点 Review20人
4 音楽評価 8.81点 Review16人
5 感泣評価 9.12点 Review16人
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