2.《ネタバレ》 すごい映画だ。勢いがあってテンポもいい。緊張感も抜群。終盤の盛り上がりも稀有なものだし、こういう瞬発力のある映画はもしかすると映画の理想系なのではないかと思わせるくらいだ。監督が撮影当時28歳だったのは驚きだが逆に若いのが功を奏したのかも知れない。歳をとって落ち着いてからではこういう映画は撮れない気がする。
天才はどうやって生まれるか。血の滲むような努力とありえないほどの困難に直面しなければならない。かどうかは知らないが少なくともフレッチャーはそう信じている。彼には自分の手で天才を生み出すということしか頭にない。主人公のニーマンはそれに喰らいつく。ガールフレンドを捨て練習に没頭する。彼には友人らしき人間がいない。親類をも罵倒する彼はドラムで大成することしか頭にない。それが成就するなら孤独に早死にしてもいいと思っている。だからフレッチャーのありえないしごきにも喰らいつく。彼は恐ろしい人間だが自分を高めてくれる存在と信じたからだ。この二人には我欲しかない。ニーマンは間違いなくフレッチャー側の人間と言える。普通の人間からすれば二人ともクソ野郎だ。
終盤のフレッチャーの梯子を外すような行動。恐ろしい。あんなことをされたら常人なら一瞬で消し飛ぶ。あれはしごき?それとも復讐?結果的にニーマンはありえないほどに追いつめられあのラストが生まれる。見送った父は何を思うのだろう。過保護とも言える父の抱擁から離れた後あのラストが生まれる。あのラストの後この師弟がどうなったかは知る由もないが、あの一瞬だけはあの一瞬だけは二人は望んだものを手にしたのだろう。