2.《ネタバレ》 原作は未読。役者陣の演技は文句無し。主演二人は切迫した状態や感情の機微を細やかに表現しているし、脇を固める樹木希林や柄本明の安定感と存在感は、素晴らしいの一言に尽きます。
テーマが「誰が本当に悪人なのか?」だとすれば、恐らく「誰もが立場や状況によって悪人にも善人にもなり得る」となるのでしょう。現実的に見れば、本作は「経験値の低い男と女の逃避行」に過ぎません。生まれ育った街から出た事もなく、人付き合いも碌にせず(出来ず)、世間一般では白い目で見られる「出会い系」で出会った男女が依存し合う、現実逃避の物語。しかし私は、この「世間一般」がキーワードだと思います。
二人は、自分の人生を満足に生きられない・生き方を知らない人間なのでしょう。閉塞感に包まれた何の変哲もない日々。周囲の期待や固定観念に縛られ、どこか自分に無理をしたり、犠牲にせざるを得ない人生。人並みに恋愛すらできず、またそのやり方さえ知らない不器用な生き方。世間一般では蔑まれる方法でしか他人と関わる事が出来ない、悲しくて弱い人間。それでも、誰かの存在を求めずにはいられない。そんな二人が出会えば、互いに惹かれ、共感し、依存してしまうのはごく自然の成り行き。先が見えていても一縷の望みに縋ってしまうのは、そういった弱い人間だからこそなのでしょう。
二人の行動には、多くの人が迷惑を被ります。それでも止まる事が出来ない(しない)のは、彼らのような人間が極限状態に追い込まれると、自ら破滅の道を選んでしまいやすい、という典型例なのかもしれません。彼らがもしいわゆる世間一般の感覚を持ち得ていたら、祐一は人殺しをしなかったはずですし、光代もそんな彼と行動を共にすることも無かったはずだから。結局二人は「似た者同士=世間一般とは少しズレた二人」だったのでしょう。それを対比として描写しているのが「被害者の父がマスオに危害を加えようとしたものの、ギリギリで踏み止まった場面」であり、「タクシー運転手と光代の会話」なのでしょう。
印象的だったのは「夜に鏡を見ていたら、急に(金髪に)したくなった」と言う祐一に、光代は「なんか分かるかも」と同調する場面。夜の孤独と現状を打破したい気持ちが集約されているような気がしました。
音楽が邪魔に思えたのは少し残念でしたが、それでも私は本作に強く心を打たれたので、この点数にしました。