1.《ネタバレ》 村田(でんでん)の徹底した悪人ぶりに圧倒され、現実から逃げて楽な服従を選ぶ社本(吹越満)。実際、観ている側も圧倒されます。エスカレートする圧力へ反抗心が芽生えても、人のネガティブを知り尽くした悪魔のような村田の弁舌に消沈する。これは大人のイジメの話なのかと思いつつ、社本のストレスがいつ、どの方向へ解放されるかを心待ちにしました。タガが外れた後の社本は期待以上。村田をメッタ突きにして溜飲を下げた後、家族への態度も変わる。村田が口にしていたネタを教訓にしたような横暴ぶり。コイツは村田2世になって、その強権で家族をまとめ上げるのかと思ったら、そんなありがちな回答は用意していない。妻を道連れにし、娘には遺言として社会の厳しさを痛みと共に教えようとする。人生はイタイとかツライとか…。たぶん、円満な家族ならそれは伝わるけど、この家族には無理。娘にしてみれば「私だってイタイしツライわよ」で終わり。何の成果もあげずにウザイ親父の死として娘を喜ばせる。テーマはシンプルだと思う。崩壊している家族を徹底的に暴こうとした映画。あるいは、崩壊していても体裁を保つことが出来る、家族と呼ばれるあやふやな人間関係に豪快にケチを付けた映画だろうか。ウチはあそこまで酷くないと思える人には良い映画なのかも知れない。徹底的にやる映画は素敵だ。グロさのインパクトが不穏な余韻を残す反面、全てを見せられた快感がある。スクリーンに向かってもう十分と言いたくなる作品は滅多にありません。役者に対する褒め言葉に「体当たりの演技」と云うのがあるが、本作の黒沢あすかと神楽坂恵こそ、その言葉に相応しいと思います。