207.《ネタバレ》 リプリーとフィリップの間には貧富の差が大きな隔たりとしてあり、友情と呼べるものはない。
フィリップは傲慢な金持ち、リプリーは金目当ての貧乏人で、どちらにも好感が持てない。
ヨットでリプリーが本人を前に殺害計画を平然と話しているのが大胆で、嵐の前の静けさのよう。
フィリップもだんだん「こいつマジなんじゃ?」と危険を感じ始める様子がリアルで見応えがあった。
犯行は杜撰で、パスポートを偽造して声とサインを真似ただけで本人になりすます。
案の定、知り合いに出会ってバレた挙句に殺して行き当たりバッタリ状態。
指紋にも気を遣っておらず、これではあまり頭がいいようには見えない。
ところが、警察の捜査がお粗末で、指紋の鑑定がいい加減だから犯人を勘違いしてしまう。
時代が時代とはいえ攻防のレベルが低いので、犯罪ものとしては少し物足りない。
大金に婚約者とすべて手に入れて二人殺した罪悪感の欠片もなく幸福感で満ち足りている姿がふてぶてしく映る。
そんなリプリーに天誅が下るラストにはカタルシスがある。
ただ、主人公に肩入れできないとどうしてもインパクトが薄くなる。
アラン・ドロンの出世作だが、一時代を築いた正統派二枚目ぶりを発揮。
風情のある映像美とせつなく美しい音楽も堪能できるが、ストーリー自体は名作と呼ばれるに値するほどのものとは思えない。