106.《ネタバレ》 「手紙ってめちゃ大事やねん」と、沢尻エリカが主人公をこれでもかと諭すように言い放つ。
もう映画のクライマックスだと思っていたシーンでのこの陳腐であざとい台詞を聞くや否や、思わず大あくびをしてしまった。
物語としての面白さがまるでない道徳映画を観てしまったなあと思った。
が、映画はもう少し続いて、結局最後は泣いてしまった。
東野圭吾の原作は読んでいないので、一概には言えないが、ストーリーには彼らしい捻りはない。
殺人を犯した兄を持つ主人公の苦闘の日々を、兄弟間の“手紙”のやり取りを絡めながら、つらつらと重苦しく描く。
映像となり、主人公を山田孝之が演じることで、その“重さ”は余計に”じっとり”としたと思う。
だからと言って、特筆する程の「悲劇」も描かれない。明確だけれど地味な「不幸」が波のように訪れるばかり。
苦悩し続けた主人公は、ついに兄との明確な「決別」を決意する。
ラスト15分、そこから物語はようやく感動へ転じていく。
映画の中でも説教臭く描かれる通り、世の中から「差別」が無くなるなんてことはないのだろうと思う。
なぜなら、人の世の中は、差別し、差別されることで成り立っている要素が多分にあるからだ。
そして、そのことと同じく、一度繋がった人と人との関係性を完全に消し去るなんてことも、実際不可能なことだろうと思う。
それが血縁者であるなら尚更。ただただ受け止めて、生きていくしかない。
使い古された言葉を敢えて使うなら、それが「宿命」というものなのだろう。
そういうことをこの兄弟がそれぞれに受け止めたラストシーン。
受刑者の兄を演じる玉山鉄二が、漫才をする弟の姿を見つめながら、号泣を押し殺すようにひたすらに両の手を合わせる。
それは、延々とありふれた道徳論を描いてきた映画の果てに辿り着いた、綺麗ごとではない真実味だったと思う。
映画としての展開は非常に稚拙で、ラストシーンにしても小田和正の楽曲を無理矢理持ち出して、強引に涙を誘うというあざとさが溢れていることは否定できない。
ただあざといからこそ、人間と社会、人間と人間の結びつきについて考えさせられる映画だとは思う。