8.《ネタバレ》 先に言ってしまうと、本作のエンドクレジットは無音である。多分、鑑賞した人は皆同じ感慨に浸るのではないでしょうか?それは深く、重くのしかかってくるもの…。本作が、イーストウッド監督が伝えたかったもの、正解の無い、不確かな現実で生きた兵士の、戦争が生んだ後遺症の傷痕が残したもの。たかが(と言ってしまうのは大変失礼だが)映画のエンドクレジットでこれ程までの『重さ』を伝えてくるとは!それはオープニングからの演出が一気に観客を引き込んでしまったからだ。あの息も詰まる様な狙撃に至るまでの演出。クリス・カイル本人は原作に「人には分かってもらえない。」と書かなかったそうですが、イーストウッドはありのままを本作に映し込んだ。敵となるイラク兵達を「savages」と呼んだ事などもそう。まさに部外者が後から口出しするのは簡単だし、そんなのは偽善だと思う。まして「議論」が巻き起こるのは当然の事で、それは話題の裏返しに過ぎない。僕はいち観客としてこの映画を非常に興奮して観れました。映画らしい一流の狙撃手同士の戦い。昨今のそれに比べると派手さなど控えめかもしれませんが、その分狙撃シーンの迫真さが際立つ。ブラッドリー・クーパーは肉体改造もさることながら、相手の命を奪う事に対する正当性やその支えになる正義(本当にそうだったのかは僕には分かりませんが)を見出す苦悩と、帰国してからのクリスという二面をこなし、非常に繊細な演技で派手さが無いので普通に見過ごしてしまう様な、印象の薄い演技でしたが、見返す度にその『繊細さ・普通さ』がどれ程のものか、分かる時が来るでしょうか。またあのエンドクレジットの余韻に浸りたい。 【miki】さん [映画館(字幕)] 8点(2015-03-02 16:15:51) (良:1票) |
7.《ネタバレ》 オープニングの緊張感溢れるシークエンスから惹き込まれます。眼光鋭く友軍の通行場所を見張る主人公。対戦車グレネードを懐から取り出したイラクの少年を照準に定め殺すか殺さないか、という所で場面が急転換し初めての鹿狩りのシーンへ。その後にオープニングのシーンに戻り主人公は少年を射殺する。ここは主人公が狩りとして人を殺してしまったということなのでしょう。そこから彼は戦場という死が蔓延している世界に蝕まれていく。家に帰っても心休まる場所は無く、あらゆる場面でヒステリックな反応をしてしまう。戦争(に限りませんが)という異常な状況が人間性を破壊してしまい、その結果生じる孤独を抱えて苦悩する一人の男を丁寧に描いた良作だったと思いました。それでも終盤には退役兵としてPTSDにかかった兵士のリハビリに係ったり、家族との関係性も上手くいったと思った所で、主人公が殺害されてしまったのは本当に悲しかったです。 【民朗】さん [映画館(字幕)] 8点(2015-03-01 21:59:49) (良:1票) |
6.《ネタバレ》 この作品にはあらゆる“一瞬”が積み重ねられていく。 TVに映る同時多発テロの様子、戦争で腕を失った少女、義足の青年、棺に刻まれた気休めの勲章。 その一瞬だけ映る筈だったものが、戦友たちにとって一生消えない傷として刻まれていく。隣で体を失った仲間が楽しげに喋っている痛々しさ。五体満足でいる自分が申し訳なく思ってしまう辛さ。 それに幾度も響くドリルの音。日常では工具のドリルが、戦場では風穴を開けて人を殺す武器に使われる。ドリルの音を聞く度にそれを思い出さなきゃならない。 そういった拭いきれない傷跡が幾重にも心に刻まれ、戦場から帰った後もクリスの心を蝕む。 狩りや射的、訓練とは違う。疑わしきは女子供だろうが殺らなきゃ殺られるのだから。 でもそれ以上にゾッとしたものがある。 いつ死ぬか解らないのに、肝心のアメリカは兵士を何度も日常と戦場を行き来させる遠征という名のピクニック気分。兵士にしてもいつ敵に出くわすか解らない戦場で家族に電話をかけるような腑抜けっぷり。アメリカの怠慢がここに描かれ...ってそれをクリスあんたがやんのかよっ! 気持ちは解るよ。でもまさか二度も嫁に電話かけるとは思わねえよ。しかも二度目は戦闘中にだぜ?爆音や悲鳴を生で聞かされる嫁の気持ちにもなってみろよこの野郎。 軍服の前と後ろにドクロのマーク付けた男がそんな事してんだもん。こりゃ敵もクリスの事を悪魔呼ばわりしたくもなるわ。 夕飯振舞ってくれた人たちが床下にとんでもないものを隠していたり、 黒頭巾の狙撃手との撃ち合い(携帯を使って無言で黒頭巾の男に情報を入れる黒服の女性もイカす)、 死んだ男から子供が武器を拝借して撃とうとするのを見て「頼むからやめてくれっ!」と言ってクリスが吐きそうになるシーンよりも戦慄したよ。 それでも狙撃者同士の戦いはやっぱ燃えますよ。見えざる敵をどちらが先に見つけるか、ソイツを“見つけた”瞬間の緊張と高揚!大将首ぶん奪っても終わらない壮絶な銃撃戦、砂埃で視界が利かない中での死闘。 クリスは戦場から帰っても、消えない心の傷が元でいつ犯罪を起こしてしまうか、その矛先を家族に向けてしまうのではないのかという恐怖にも苛まれる。 そんなクリスが子供たちと西部劇ごっこという命を奪う真似事で遊んでいる姿は微笑ましくもあるし、とても悲しい姿に見えた。クリスは死ぬまで銃を片手に過ごしていたのだろうか。 【すかあふえいす】さん [映画館(字幕)] 9点(2015-02-26 14:17:15) (良:1票) |
5.《ネタバレ》 意識して映画館で映画を観る様にしてから何だかんだで30年以上経つが、完全に無音のエンドロールは初めてだと思う。 この「無音」は、監督が観客に考える時間を与えたいが為に設けたものだと私は思いたい。 本作でもクリント・イーストウッドの冷徹さと温情を併せ持つ、乾いたタッチは健在で、アカデミー作品賞候補も納得の力作。 主役を演じたブラッドリー・クーパーはまるで題材となった故クリス・カイル氏が乗り移った様で、後半の医者から受けるインタビューのシーンはドキュメンタリーフィルムを観ているかの様な錯覚を感じた。 扱っているテーマが非常に重く、目を背けたくなる情け容赦無いシーンも有る。 鑑賞される方はそれなりのお覚悟を。 【たくわん】さん [映画館(字幕)] 7点(2015-02-22 20:01:11) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 イーストウッドの映画はいつも過剰な演出が無い。この映画もクリス・カイルという一人のアメリカ兵に起こったことを描いているだけ。ただこの人にずば抜けた狙撃の才能があって戦果を挙げたため表面的にはかなりドラマティックなものになっている。
最初に狙撃したのが少年そしてその母親というところにこの人に忍び寄るものを暗示しているように感じる。敵から恐れられ莫大な懸賞金まで懸けられ、ムスタファと呼ばれる元五輪選手の凄腕に狙われるというまるでフィクションのような物語。だがそんな彼にも戦争の闇が忍び寄る。四度の出征の中で確実に彼の心は蝕まれていく。妻は止めるが彼は聞かない。それは「羊たちを狼から守る番犬になれ」という父親の教えを守っているからだろうか。それともムスタファを殺せるのは自分だけだという自負があったのか。ムスタファを長距離スナイプでしとめ彼は帰還する。その後の子供と戯れていた犬に殴りかかるシーンは象徴的だ。子供を守るために殴りかかろうとした相手は「狼」ではない。
この映画はアメリカでは3億ドルを越えるというどこかのアメコミ映画のようなメガヒットを叩き出している。こういう題材では信じられないくらいの大成功。その反応には賛否もあるみたいだが英雄視する人、反戦映画だという人、アメリカ万歳映画だという人、いろいろな思いを持った人たちが映画館に押し寄せた結果なのだろう。
個人的には英雄を讃える作品というよりは戦争で傷ついた一人の兵士を描いた作品という印象を強く持った。PTSDの元兵士に射殺されるという最後も皮肉すぎる皮肉だ。
それにしても84歳が撮ったとは思えない作品。過剰な演出も無いが娯楽的に観られるようにもしてあって、イーストウッド作品に大きなはずれが無い(あくまで個人的な印象だが)のはそのバランス感覚によるところが大きいと感じた。 【⑨】さん [映画館(字幕)] 8点(2015-02-22 16:54:16) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 イラク戦争は、イラクが大量破壊兵器を保有しているというアメリカの言いがかりに端を発したものだというのが大前提の物語である。 父の教え、(自分では読んでいないだろう)聖書の教えを忠実に守った青年が、戦争の中で壊れてゆく。4回に及ぶ戦場への出征。しかも、行く度に戦地の状況は悪化し、作戦は雑なものに…。 祖国と戦友を守ろうとしたヒーローは、女子供を戦闘に使う近代戦の中で心を蝕まれる。主人公は自分と同じく、戦争に傷ついた者たちを救うことで自分も救おうとした。 戦争の非人間性だけでなく、ヒーローという存在の内面の重さにも触れた見事な作品だと感じた。 【こんさん99】さん [映画館(字幕)] 8点(2015-02-21 22:27:51) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 本作の評価は賛否両論ですね。ここでもそのようですが。見ましたがどちらの言い分も分かる。イーストウッドのインタビューも事前に読んで「本作に政治的な意図は込めていない」と言うのと「戦争がいかに人の心を蝕んでいくかは伝えたかった」と言う2点は理解して見たつもりです。見ましたが、率直な第一印象は「何が言いたいのかよく分からん」です。本作は見る人によって評価が180度違うのも特徴で「アメリカ万歳映画」「愛国心あふれる英雄の映画」と言う人もいれば「究極の反戦映画」「アメリカに突きつけた警告」と捉える人もいる。その理由も映画を見れば明快でイーストウッドが何も語らなかったので、見る人の捉えようでどうとでも捉える事ができるから。これは一本の映画としては失敗でしょう。私は映画で政治的信条を語れとは言わないし、何かを語れば良いってもんではないのはわかるけど、ここまで評価が割れてしまっては作品にとって結局マイナスでしかない。イーストウッドの本来目指した「戦場の狂気」についても何とも中途半端な印象しかないです。抑制の効いた演出で切って捨てるほどの駄作ではないが、是非見ろと勧められる映画でもない。私の評価も何とも中途半端なものとなってしまいました。 【ぴのづか】さん [映画館(字幕)] 5点(2015-02-21 16:26:22) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 戦争なんて体験しなくてもどんなに非情かは誰でも解ります。要はそれを観る人に伝える事が大事なのですが本作にはそれがありません。4回も戦場へ行くのに主人公に抵抗が微塵も感じられません。普通嫌でしょう。傭兵じゃあるまいし。愛国心を前面に出さず終始主眼がどこにあるのか不明のままストーリーは進みます。物語りに起伏がないんです。スナイパー同士の戦いが凄いようにも感じませんでした。またそこに主眼を置いた作品でもないでしょう。何かプロパガンダっぽくならないように抑え気味に製作したのが返って良くなかったように思えます。PTSDを患った元軍人に殺されてしまうと知っていたのも大きなマイナス要素でした。自分の中でもっと別の何かが形成されてしまっていたらしくて。 【エラリイ】さん [試写会(字幕)] 3点(2015-02-21 00:13:22) (良:1票) |