108.《ネタバレ》 この作品でやはり誰もが褒める名演技の役者が加藤嘉です。
後半の犯人の幼少時の父とのロードムービーが、
まるでサイレント映画のようにほとんどセリフがありません。
ハンセン病というその時代では差別的な病気により、
村を追われ旅を続ける父子がたどりついた先は・・
決して明るくも和やかでもない旅なのになぜかほっとする、
そんな父子が引き裂かれる(宿命)
少年が選んだのは名前を変え生き場所を変え過去を捨てることだった。
後半の音楽だけの回顧シーンはピアニストの演奏会のシーンとだぶり、
もうひとつ重ねるように説明するのが主役の刑事 丹波哲郎。
この3つのトライアングルが見事で、
この作品のクライマックスでありモノローグでもあります。
私はこの回想シーンで涙が止まりませんでした。
父がかわいそうでかわいそうで、
そして育ての父でもあり父子を引き離した善意の父もかわいそうで・・
なんでこんなことになったんだろう。
救いようがないじゃないか・・
犯人には全然感情移入できないしかわいそうとも思えない。
でもなんで・・そう心が揺れていたエンディングにラストの大逆転の真実。
ここで犯人の気持ちがわかったような気がした。
この人はパニックになったんだろうと・・
宿命に囚われた過去を捨て人を踏みつけても這い上がってきた。
それがまた切っても切れない宿命で繋がってしまう・・
多分私が犯人だとしてもパニックになって自分を押さえられないと思う。
もちろんそこで自分を抑えるのがしなければならないことで、
それができなかったことが犯人の宿命なのです。
感動し見終わったあと考えてしまう後半に対し、
前半はまるで西村京太郎(も好き)の旅情サスペンスのノリで、
邦画にしては長いのですがその長さを全く感じさせず、
特に地方の方言やトリックによる面白いドラマになっています。
昔観たときには感動はしたけれど暗いかなぁと記憶していたのですが、
今回久々に見てみると前半が意外にテンポよくしかも後半も暗く感じず、
ただ扱う問題がかなり特定される救いようのないテーマなだけで、
それをここまで娯楽も取り入れ映画化できたのはすごいなと思いました。
非常に丁寧で好感の持てる映画です。