36.全てが狂った飽食の時代に、熱い魂の男が蘇った。
彼の人生が、闘いの中…エンディングに疾走するまでの間ずっと駆け巡ってきた。
野良犬のように彼は生きていた。
熱いハートは無く諦めの日々を暮らしていた…けど、彼は優しさだけは無くさなかった。
生涯ただ一人の女を愛し、周りの冷ややかな目線など気にせず、ユーモアで笑顔を得ようとした。
絶対王者であったアポロからの指名…そのチャンスに群がる人間への疑心。
自身の無駄に過ごした10年間を呪うように…歩み寄ったトレーナ、ミッキーに罵声を浴びせた。
しかし、彼は意固地になる事無く、自らミッキーを信じ、駆け寄った。
ミッキーをトレーナーとしては勿論、友人として、父親として…信じた。
数々の不安と苦痛が待つリングに身を置き、生き抜いて家族を護り…
しかし、少しの驕りから…ミッキーを喪い、覇者の証まで喪う。
失意の中、かつての敵から勇気と友情を…愛する妻からは安らぎと闘志を得て、立ち上がる。
結果は問題ではない。今の自分で居続けることが大事なのだ。
闘いとは技法ではない、心なのだ。
不器用に人を信用し、裏切られ…愛する息子の温もりさえ喪いかけた。
その息子に等身大の視線で愛を訴え、そして取り戻し…
10何年以上の時を得て、等身大の視線で息子に魂をぶつける。
逃げる事無く、奢る事無く、見下す事無く自分の魂の言葉が、観客である俺の胸を打つ。
最後の戦いに赴き、若き王者に伝承したもの…それは決して技法ではない、魂のあり方だ。
闘いを終えて、万感の思いを纏い…彼は観客である俺たちに手を振った。
その笑顔は人生から逃げなかった者だけに許される眩しく最高の笑顔だと、俺は知った。
技法に走り…人を貶め、斜めに見下し…心や魂に価値がないと思われがちなこの世界…
イイじゃないか、こンな不器用な人生の男が一人くらい居たって。