4.《ネタバレ》 予想以上に十分笑える映画には仕上がっている。双方の勘違いによるシチュエーションを上手く利用したハイレベルの笑いが随所に盛り込まれており、その点は評価できる。
特に、「カット」の使い方などはハマった。
ただ、一本の映画としては高い評価をしにくいところはある。色々と詰め込みすぎたためか、“収まり”や“バランス”が悪くなったという印象をもつ。
結局、何が描きたかったのかという点が見えにくくなっているのが欠点だ。
監督が当初伝えようと思ったのは、タイトルにある通り「マジックアワー」だと思う。
昼と夜の間の一番美しい瞬間というような説明だったと思うが、その「マジックアワー」を人生にみたてたかったのではないか。役者として全く成功することなく、役者から足を洗うかどうか悩む佐藤浩市に対して、“きっと「マジックアワー」は来るものだ”と教えるのが本作の趣旨と思われる。
佐藤だけではなく、誰のところにもきっと「マジックアワー」は来るはずだということを伝えるのが落としどころと思っていたが、こういう趣旨が上手く伝わりきれていないのが惜しい。「今日はダメでも明日がある」という大事なメッセージが唐突になりすぎている。
そして、肝心のオチが悪すぎる。
俳優に現実の殺し屋を演じさせるという面白いシチュエーションを思いついたものの、オチは思いつかなかったようだ。
終盤に進むにつれ、面白みを失っていくのが残念だ。
本作はボスとデラ富樫への二段階のオチが用意されているがどちらも上手く落ちていない。完全にスベったのではないか。三谷は、スベり芸という高度な芸を披露したわけではあるまい。
例えば、二つの組の抗争に佐藤浩市が絡んでいき、映画だと思い続ける佐藤浩市が抗争にピリオドを打ってもよかっただろう(もう一つの組も佐藤がデラだと思うという設定にすれば面白くなったはず)。
または、佐藤が最後の最後に現実の出来事だと気付き、自分の命を守るために、役者らしい一発逆転の策を練ってもよかった。
もしくは、妻夫木を悪役にして、騙しているつもりが、最後には騙されてしまうというものでもいい。
確かに、随所で笑える映画にはなっており、評価も悪くない点に落ち着きそうだが、笑えるだけでは物足りないと思う観客もいるだろう。何かが足りないのではないか。