1.独りよがりが過ぎて狂人の域まで至っている黒澤監督が、同じく独りよがりが過ぎて狂人の域まで至っている男を主人公に描く純粋独りよがり映画。監督の内面をそのまま実体化したような不快なじじいが主役。そして、凶暴なようなそうでもないような彼を近親者が恐れているようなそうでもないような、心理的につじつまのあわないシーンが連続してあきれる。そんなご都合主義の演出は歌舞伎の型で出来ているようなシュールさで、無理矢理な老け役の三船敏郎の力みすぎの熱演と、コントみたいなメークの水戸黄門の登場と相俟って観ているこちらも発狂しそうだ。また大上段に構えすぎる問題意識の表明は、黒澤さんがはずす時の「観客おきざり」というある意味王道ともいうべきパターン。本作はタイトルからしてそうとう恥ずかしいその手の代表作かと。こんな自己満の塊みたいな作品のために、町工場のセットを周辺も含めてまるごと作るのだから、当時の映画産業の持つパワーに思わず感心してしまう。家庭裁判所の廊下のセットは当時新しく出来た体育館みたいなスタジオを斜めに使った長大なものらしいが、画面を圧縮して密度を高める黒澤理論に沿って望遠で撮っているせいで奥行き感はなく、その効果はほぼ感じられない。大塚駅のセットもそれを作る必然性を感じる画は無い。いったい何やってんだ? 我が儘いっぱいの大人子供が作ったような極めて奇怪な作品なので、貴重なその珍奇さをもって10点でも100点でもいいのだが、どう好意的にみてもドラマ的なチープさは否めないうえに、心底恥ずかしい気持ちにさせられたので0点。