1.《ネタバレ》 溝口健二はこの作品の前に「瀧の白糸」という傑作を既に完成させていたが、本作はそれの焼き直し。
ただこれほど「死んだほうがマシじゃないか」と思えるラストはなかった。生き地獄とも言える。
まずファースト・シーン。
機関車がトラブルを起こして駅に立ち往生。
その駅から神社を見つめる一人の男。
一方カメラは横にスライドし、もう一人女性を映す。
その女性もじーっと同じ神社を眺めている。
実はこの二人は昔あの神社で出会った腐れ縁だった。
そこから主人公の目を通して過去が語られていく。
山田五十鈴が凄い若いし綺麗だ。
男は田舎から出て偉くなろうと頑張るが中々芽が出ず落ち込んでいた。
そこに走り込んできた一人の女。
これがこの二人の出会いだ。
女に拾われた男だが、そこの雇い主にこっぴどい扱いを受ける。
男は黙って耐え凌ぐが、やはり飢えには勝てない。
エスカレートする嫌がらせ、それを見て女は我慢に限界が来て雇い主にけしかける。
その時の山田五十鈴のカッコ良さと色っぽさ。
口に刃物を添えるところは色っぽいね。
まるで勧善懲悪ものの一場面を見るかのような胸のすくシーンだった。
ただそこは溝口。
簡単に女を幸せにする気はサラサラない、ある種性根が腐ってんじゃないかという展開にかならずする男だ。
いや、真面目だからこそあえて女性を与えるのが溝口。
小津とは違うパターンの天才。
女性を徹底的に描こうとする男の厳しさがそこにある。
ヒロインを追い詰める男どもは、ある意味溝口の分身なのかもな。
その山田五十鈴が良いねえ。
折り鶴を折って「いつか自分も自由に羽ばたきたい」と思いを込める。
ただ運命は彼女を追い詰める。
そんな時に愛した男に向って「魂をあげます」とその折り鶴をひと吹きやって思いを届けようとする儚さ。
いい女だなぁ・・・。
それがあんな事になるなんて・・・ひどい運命もあったもんじゃない。
我を失うほど狂い、幻を切り刻むお千。
まるで亡霊に刃を向け空を斬る様子は、伝説と化した傑作「狂恋の女師匠」や後の「雨月物語」に通じるものがある。
まあ、こういう幽霊描写よりも女の情念の方が遥かに怖いけどな。
そう正に「雨月」の京マチ子(亡霊な上に執念深いとか勘弁)!
溝口は本当に女に厳しい。男もほったらかしである意味一番厳しいかも。
溝口あんさんは鬼や(そんな事は原作者に言え)。
泉鏡花あああっ