1.自分がここ数年見た岡本喜八監督の作品といえば「日本のいちばん長い日」や「侍」をはじめ、どちらかといえば直球勝負のシリアスな作品が多かった気がするが、今回見たこの作品はいかにも喜八監督ならではという感じのシュールなミュージカルコメディー映画で何も考えずに楽しめた。冒頭の拘置所でのやりとりから引き込まれ、そこからもう喜八ワールド全開という感じ。主演の伊藤雄之助というと毎回印象に残る演技を見せる名優であるが、この映画では越路吹雪とのかけあいや、お経の太鼓の音に合わせて起き上がったり、汲み取り姿で散髪屋に入ってくるシーンなどとにかく笑える演技が多く、とにかく見ていて楽しい。銀行でのミュージカルシーンも馬鹿馬鹿しくてつい笑ってしまう。(有島一郎と桜井浩子がうたうシーンなんかはとくに印象的。)そんなバカみたいな展開の中にも権力者に対する喜八監督の怒りのようなものも感じ取れ、そういうところも喜八監督のらしいところだと思う。「日本のいちばん長い日」のような直球大シリアスな喜八作品も好きだが、喜八作品といえばやはりこういう一風変わった映画のほうが個人的には好みかもしれない。そうそう、能が取り入れられていて、伊藤雄之助が出てるからかちょっと川島雄三監督の「しとやかな獣」を思い出してしまった。