12.《ネタバレ》 ドイツ人が一人の人間としてのヒトラーと向き合った傑作。
「イングロリアス・バスターズ」といい、ナチスの問題に踏み込むことにNG気味な日本人には呆れ返る。
本作を支配する「滅び」の暗さ。
秘書候補、闇の中連れてこられる女性たち、彼らがウダウダやっている間に市民は次々に死んでいく。軍人の家族でさえ。
兵士、懐中電灯に照らされて、面接、ドアから出て丁寧に御挨拶、タイプライター。
冒頭のユニークさが嘘のように時は過ぎ去り戦場と化した市街地へ。
街への砲撃、ボロボロの鷲、総統も余裕がなくなってきている、痙攣でも起きているような腰の左手、大量の書類を焼き払う末期、滅びの足音、せわしく走り出す地下駐車場の車、都市計画、逃げていく市民、高射砲、土嚢、少年兵、少女兵、ナチに魅せられてしまった人々。
ギリギリとした上層部、こんな状況でも勲章授与、元気づけるためのパーティー、ドレス、彼女は黙ってとどまることを選ぶ。
気分を紛らわすための散歩、踊り、夢から覚ます一撃、悪夢へ逆戻り、散乱した書類と残るもの、機能しない師団、病院、山積みにされた遺体と病人、酒に溺れる者、情事に逃げる者。
積もり積もったものが爆発するかのような会議での激怒。左手は震えながら眼鏡を外し、腕を振り上げ罵詈雑言を浴びせるブチギレ総統…だがそこには疲れ切った中年の姿しかなかった。
明かりも水道も絶たれようとしている、束の間の一服、極限状態で味方同士でも殺し合いに、外も地下も地獄、市街戦の惨状、野戦病院と化す防空壕、子供たちの慰問、自殺の相談、手紙、別れの握手、砕けた肉片、へし折られる鉛筆、怒る気力もない、拒絶される握手、涙、帰りを待っていた者たち。
最後の立ち直り、手榴弾、狂乱、死に際に服を整え化粧をし貴重な弾丸を処刑に使う、遺書、結婚式、胸に手を当ててまで頼む、トイレに犬がいた理由、最後の最後まで飯を食らう、別れの挨拶、虚しく積み重ねられる死、死、死、それを覆う布。
処刑 、母親の苦渋の選択、足、足、足、さすがにソ連の強姦事件までは描かれなかったか、ハンナ・ライチュ、飛行士。
老後の秘書にインタビューする場面で物語は終幕する。