1.《ネタバレ》 これぞ、役者がそこにいるだけで絵になる魂が躍るような映画だ。
加藤泰の、そして俳優としての伊丹十三の「偽大学生」「家族ゲーム」「草迷宮」に並ぶ最高傑作。
戦後の闇市における日本人と朝鮮人の対立を正面から描いた極太の作品。
左頬に刻まれた疵。安藤昇の存在感は黙っていても映える。
一方の伊丹も言葉という極太の“刃”を持って社会に切り込もうとしている。
静と動の鮮やかな対比、そして「何故みんなは黙っていられるだ。誰も動かんなら、俺がやってやらあっ」とタブーにズカズカ踏み込む勇気と危うさ。
それは映画を愛するが故に「誰も撮らんなら、俺が撮ってやらあ」と数々の傑作や問題作を残して謎の死を遂げた十三の未来を暗示するようでゾッとしてしまう。
劇中では戦場の辛い記憶や戦後の混乱、愛する女のための行動などが彼を死に急がせる。
クライマックスにおける怒涛の展開も彼の生き様を物語るようだ。
父親の伊丹万作も、その友人の山中貞雄も志半ばで早逝してしまった。
天は何故素晴らしい人間から命を奪っていくのだろう。
これが神の仕業とでもいうなら、神なんてクソ喰らえだ。