3.《ネタバレ》 アメリカ人には逆立ちしても作れないモンスターパニック。アクションでもホラーでも、題材を替えて同じパターンを繰り返すだけになりがちなもの。安手の使い古されたネタで、よくぞここまで斬新な物語を展開したものだと思う。
まず軍や警察ではなく、どちらかという生活レベルの低い庶民、しかも一家族を主役に据えているのが新しい。こういうのはたいてい偶然居合わせた連中がやむを得ず戦ったりするわけだけど、家族を中心に展開されるだけで否応なしに引きずり込まれてしまう。馴染みやすさが全然違うし、加えて、サスペンスで無理に盛り上げなくとも観客を惹きつけることができる。結果として豊かなドラマ性が生まれ、モンスターものなのにホラーというジャンルに収まりきれない異色作となっている。
またあの怪物の大きさがイヤだ。大きすぎず小さすぎず、ありえないんだけどありえそうな、ちょうどいいくらいのサイズ。クモザルみたいにひょいひょい移動するあの動作も巣に餌を溜め込む習性も、なんだかもっともらしくて、妙な説得力がある。
そして怪物が生まれた背景には人間の浅はかさがあるというテーマは大昔の『ゴジラ』からあるものだけど、これほど怪物よりも人間の怖さを思い知らせてくれる作品も珍しい。軍隊なんか全然頼りにならないどころか、隠蔽するために危害を加えてくる始末。ここらへんのリアリティなんかもう、気色悪いくらいである。
エンターテインメントなのにシリアスで、シリアスな割にはエンターテインメントしている。バランス感覚が絶妙というか、独特だ。すべてにおいてそうで、音楽や映像のセンスもけっしてB級ではないのに気取りすぎてもいない、ほんとうに絶妙な加減にとどめている。
この妙なリアリズムからいってもベタなハッピーエンドはありえないと思っていたので、この結末には素直に納得した(少なくとも、個人的には)。怪物に襲われても政府に踏みつけにされても結局は生き残る庶民のたくましさ、雑草魂が印象付けられる、いい結末だったと思う。米国の責任問題を報道するニュース番組を、「つまんないから」の一言で消してしまう、あの図太い神経。ああ、大丈夫なんだな、何があってもこいつらは生きていけるんだな、という安心感があった。
ハッピーエンドとも言い切れず、かといって救いがないわけでもない。ここでもやはり不思議なバランス感覚が発揮されている。