1.《ネタバレ》 溝口健二と言えば「女を必ず酷い目に遭わすか死に追いやる鬼畜野郎」と考える人も少なくないだろう。
だがそんな溝口作品にもハッピーエンドで終わる作品がある事を貴方は知っているかな?
それがこの「愛怨峡」だ。
いかにもドロドロとした愛肉劇と殺し合いが起きそうな物騒なタイトルで、「愛憎峠」と間違えやすい題名だが、本作はそれほど陰惨な最後を迎えない。
むしろ誰がどう見てもアレはハッピーに近いラストだろう。
俺は溝口作品にこういう作品が一つでもあって嬉しい。
溝口健二だって人間だ。
神様でも閻魔様でもない。
たまにはこういう終わり方があるべきだ。
だからこそ俺は溝口に惚れた。
大体オープニングからしてズッコケるような感じがする。
物騒なタイトルと裏腹に楽しげなBGMが流れるオープニング。
クレジットの溝口の名前だけやたら崩れている時点で完全にアレです。
家の中を流すように映すカメラワーク、
走る列車から覗く自然の風景→都会のネオンへの切り替え。
距離感と時間経過を列車の風景だけで見せる。
これぞ映画だね。
子のためを思うからこそ預ける辛さ・・・今回の溝口は母親を描こうとした。
時の流れの解りにくさはあったが、アコーディオン?弾きになった芳太郎とおふみの衝撃的な再会で時間経過を辛辣に描く。
時の流れの残酷さ、だがおふみはこの2年で身も心も荒むどころか見違える程に強くなった(化粧の濃さも)。
2年前は弱々しい感じがあったが、心も面付きもたくましくなった彼女は頼もしく見えた。
熱を出した子を寝ずに看病する“母親”、
タバコ片手の“キャバレーの女”という匂いと二面性を感じさせる。
「ヨッちゃん」も素晴らしいかったね。
自らを「ヤクザもん」と呼び、自分を解っている男なわけよ。
オマケに愛する女のために一芝居を打ってまであえて身を引けるその男気。
本音を打ち明けるのも長年苦楽を共にした親方だけという、溝口作品きっての男の中の男だ。
夫婦漫才は山場でもあり伏線でもあった。
アンタがヤクザもんだって?
だとしたら最高の“ヤクザ”もんだぜ兄貴・・・兄貴と呼ばせて下さいヨッちゃん兄貴!
溝口がここまで男を描いてくれて感動してしまった。