1.《ネタバレ》 始めに言いますが、絶対に「タイタニック」を期待しないで下さい。
ジャケットに騙されないで下さい。
とはいえ、この二人はタイタニックの船上で大恋愛をして、実は二人とも助けられて生き残っていたんです。そして円満な家庭を築いたのです。その「成りの果て」がこれです。…なんて解釈はちょっと意地が悪いかな?
「他人の不幸は蜜の味」なんて言うじゃないですか?
特典のインタビュー映像では、「この二人は理想の生き方を追い求めるあまり大切な家庭までも壊してしまう悲劇」と答えていますが、私にはそう解釈できません。
エイプリルは始めから家庭なんかどうでもいいのです。女優になれなかった妥協なんです。「子供を仕方なく生んでしまった」というセリフは、どう考えても本音を口走ったとしか解釈できません。
「理想の生き方」…いえ、この夫婦は日常の不満な生活から生まれた「欲望」を満たしたかっただけだと思います。その「欲望」はお互い、やりたいことが違っていただけで、二人は始めから愛し合ってなんかいなかったんだと思います。
男尊女卑が当たり前の50年代。この時代に本作が上映されていたら、まず批判されるのは妻のエイプリルだと思います。
あの時代に生きていた人がリアルタイムでこんな作品を観たいなんて思いませんよ。
この作品は「カッコーの巣の上で」と同じカラーを持っていると思います。
彼女は今風なんです。21世紀の現代的な女性なんです。
それがこの映画の失敗なんです。
ところで、私はよく宗教講話を聞いたりするのですが、「欲は次から次へ湧き上がってくるからキリがないんです」と欲望や邪念を否定的に捉える話をよく聞きますが、欲望ってそんなに悪いものなのでしょうか?
登場人物は、主役二人を中心に、正気なのか異常なのか、さらに精神病院から退院してきた若者まで混じり合って、複雑な交錯が織りなされていきます。意外と精神病患者の青年がもっともらしいことを言ったりする皮肉も描かれています。
ラストのエイプリルの朝食は、女優志願だった彼女の人生最後の演技だと私的に解釈しています。
ようやく自分を理解してもらえたと思う、勘違い男のデカプリオ。やはり50年代は男尊女卑が当たり前の時代なんです。
ですが、作品自体は人間の煩悩を追及した素晴らしい出来栄えだと思います。
私には意外な収穫です。