1.《ネタバレ》 1970年といえば、邦画界がTVに押されて凋落を始めた頃、しかしそれでもこのクオリティの高さには恐れ入った。
まずは俳優陣がとてつもなく豪華。
主演の石原裕次郎はもとより、勝新太郎、東野英治郎、宇野重吉、渡哲也、田中邦衛、山崎努、市原悦子と、実力派、重鎮がことごとく出演のオールスターキャストだ。
戦争を体験した昭和の俳優の引き締まった立ち居振る舞いと、1970年当時の風景。演出はスーパースターの裕次郎を主演に据えているからといって軽薄で観客に媚びることがない、重厚で抑制されたもの。
昨今の製作側の政治的な都合だけのミスキャストや場違いなタイアップテーマソングもない。
三菱重工社員の役所である裕次郎は台詞は少なく、表情で語る場面が多い。
僕は俳優としての彼をじっくり観たのは初めてだが、彼の並々ならぬ才能を垣間見た気がした。
安易なセット撮影に逃げることなく、果敢に富士山でのロケ撮影を敢行したことも画面に奥行きと重厚感を加えている。
本作の権利は石原プロモーションが持っているのだろうが、現在に至るまでDVD化されずに人々の目に触れなかったというのがつくづくもったいないことだと思う。
同じく幻の作品「黒部の太陽」もそうだが、ハイビジョンやBDの普及で家庭での視聴環境が整ってきた現在、そろそろソフト化して多くのファンに作品を観てもらう機会を設けるべきではないだろうか。