6.《ネタバレ》 見終わって、ずっしりと心に響いてくるタイプの映画。ロマンスとサスペンスをギリギリのところでかけ合わせていて、細部に甘いところはあるものの、非常に好感度は高い。でもメインは多分サスペンスでもロマンスでもなくて「人間は過去とどう向き合うか」という永遠の主題であろう。
■カメラワークがとにかく秀逸。スタジアムの中に一気に引き込む回し方や、ゴメスと一緒に落ちていき、捕まるところまで撮っていく一連の長回しは圧巻。最後を扉が閉じて終わらせたところや、牢屋の小屋に入っていくシーンなど、細かなところにも写し方をこだわっている。
■タイトルにもあるように「瞳」の演技が素晴らしく、まさに何も語らないところで「瞳で語る」ようなシーンも多い。駅の別れや誘うシーンなどのわかりやすいところから、タイプライターを打つちょっとしたシーンまで、瞳がいろいろと語ってくる。
■最後の展開は決して私刑を擁護しているのではなく、まさに人は過去に囚われざるを得ず、特に「時間が止まってしまった」かのような男リカルドはあのようにならざるを得ない、そういう「不条理」を示しているのであろう。過去は忘れるのでもなかったことにするのでもなく、それにとらわれながらしか生きられないし、その中で最善を尽くすしかない。「よい方の選択肢を」とベンハミンにいうリカルドは、裏を返せば自分には選択肢すら与えられなかった(妻を失うしかなかった)ということを示唆しているのだろう。