1.やはりこれはジャニス・ジョプリン本人とは切り離して、あくまでもその人物像にヒントを得た創作と捉えるのが筋だと思う。ジャニス本人と近しかった人々からより真実に近いジャニス像が語られ始めたのはもっとずっと後のことで、本作の作られた79年当時、ジャニスはまだ死後数年。ショックの癒えぬ関係者たち、利害関係のしがらみも消えやらぬ中、ベット・ミドラーという不世出の白人女性ヴォーカリストを主人公に話題性としてのジャニスを引き合いに出しつつ独立したロック映画を作ったと考えれば、この作品が一個の作品として非常に丁寧に作り込まれた質の高い音楽映画だということが見えて来る。もちろんジャニスは「When A Man Loves A Woman」をカバーなどしなかったし、舞台の上で倒れて死ぬこともなかった。だからこれはあくまでもファンタジー、でもこのために書かれた楽曲のクオリティの高さ、演じたベット・ミドラーの類稀なる存在感、既に当時から評価の高かったヴォーカリストとしての彼女の才能、これらを包括してなお、人々がロックスターに求める孤独と絶望の実生活を映画の中に投影することで人々のロックスター幻想を二重に描き切ったセンスは偉大。人々はロックスターに夢を求め、さらにその私生活には荒廃した無限の孤独を求める。その一方的な要求こそが「スター」ジャニス・ジョプリンを死にまで追いやったことを、まるであざ笑ってでもいるかのように。美化された孤独、美化された生涯、この映画をジャニスが観ることがあったらきっと手を叩いて笑っただろう。この映画を楽しみましょう。その瞬間、私たちは自分がジャニスに求めたものの愚かしさに気づくに違いないから。